このページの要点
- 違約金は特に定めがなければ損害賠償額の予定と推定される(民法420条3項)。選んだほうを明記し、矛盾する併記をしない。
- 面会は1件ごと、連絡は同じ日を1回、つながりの未解除は期間を通じて1回など、行為ごとに数え方を決める。
- 金額は行為の重さで段階を分け、上限のない累積や一律の高額は避ける。
- 支払うのは違反した当事者、請求できるのは害された当事者とし、差止めを妨げないことと遅延損害金を書く。
結論:違約金は「予定か否か」「1回の数え方」「金額の段階」の三つを決めて書く
示談書や誓約書に違約金の条を置く目的は、約束を守らせることです。接触禁止や口外禁止は、破られても損害の額を示すのが難しい約束です。違約金をあらかじめ決めておけば、違反の事実さえ示せば、損害の額を一つ一つ証明しなくても一定の金額を請求できます。そのぶん、条文の書き方次第で、請求できる額も、請求できる回数も大きく変わります。
事務所が違約金の条を書くときに決めるのは、三つです。一つ目は、違約金を「損害賠償額の予定」とするか、しないか。二つ目は、違反の「1回」をどう数えるか。三つ目は、行為の種類ごとに金額をどう段階分けするか、です。この三つのどれかが欠けると、違反があったときに、請求できる額の計算そのものが争いになります。
このページでは、損害賠償額の予定との関係、回数の数え方、金額の考え方、誰が誰に請求できるか、支払の期限と方法、離婚時の慰謝料や財産の約束との関係を、事務所の示談書・誓約書から整理します。違約金の対象となる約束の書き方は、接触禁止の条項と口外禁止・誹謗中傷禁止のページで扱います。
「損害賠償額の予定」とするか、しないか
民法420条は、債務不履行の場合の賠償額を当事者があらかじめ決めておけること(1項)、その予定があっても履行の請求や解除はできること(2項)を定め、3項で「違約金は、賠償額の予定と推定する」としています。つまり、示談書に「違約金」とだけ書いて何も付け加えなければ、その違約金は損害賠償額の予定と推定されます。
損害賠償額の予定とされると、違反があったときに請求できる損害賠償は、原則としてその予定した額になります。実際の損害がそれより小さくても予定した額を請求できる一方、実際の損害がそれより大きくても、超える部分は原則として請求できません。逆に、損害賠償額の予定ではないと明記すれば、違約金とは別に、それを超える損害の賠償を請求する道が残ります。
事務所の書類に見られる二つの選択
| 選択 | 書き方 | 選んだ場面 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 予定ではないと明記する | 違約金は損害賠償額の予定ではないとし、違約金を超える損害(名誉・信用の毀損、合理的な範囲の弁護士費用を含む)があれば、その賠償も請求できるとする | 配偶者の不貞相手との示談(接触禁止・口外禁止・投稿の禁止) | 投稿による名誉の毀損など、違約金の額を超える損害が生じ得る違反がある |
| 予定であると明記する | 違約金を「民法第420条に定める損害賠償額の予定として」支払うと書く | 配偶者と不貞の相手方の双方から慰謝料を受ける三者間の示談 | 予定か違約罰かが読み取れない書き方を避け、請求できる額をはっきりさせる |
| 予定であると明記し、他の請求と切り離す | 違約金は420条の予定とし、離婚した場合の慰謝料とは独立して発生し、一方が他方に影響しないとする | 婚姻を続ける夫婦の誓約書 | 違約金と離婚時の慰謝料は性質が違うため、別の項に分ける |
どちらを選ぶかは、違反によってどんな損害が生じ得るかで決めます。接触の違反のように損害の額を示しにくい違反が中心なら、予定として額をはっきりさせるほうが、請求も支払もしやすくなります。インターネットへの投稿のように、違約金の額を超える損害が生じ得る違反を含むなら、予定ではないと明記して、超える損害を請求する道を残します。どちらにしても、推定に任せず、選んだほうを条文に書いておくことが大切です。
見比べ 違約金の条でよく見かける矛盾
予定と超過請求の併記
違約金は損害賠償額の予定とする。ただし、これを超える損害が生じた場合には、その賠償も請求できる。
選んだ一方だけを書く。超える損害を請求したいなら「損害賠償額の予定ではない」と明記する。
理由予定とするなら、超える部分は原則として請求できない。同じ条の中で両立しない内容を書くと、どちらの意味かが争いになる。
何も書かない
違反したときは、違約金として金○円を支払う。
予定か否かを明記する。
理由何も書かなければ予定と推定される(420条3項)。依頼者が「別に損害も請求できる」と考えていると、思っていた結果にならない。
違反の「1回」をどう数えるか
違約金を「違反1回につき金○円」と決めても、何をもって1回とするかを決めていなければ、請求できる額が定まりません。電話を1日に10回かけたら10回なのか、1回なのか。SNSのつながりを解除しないまま1か月たったら、毎日が違反なのか。事務所の不貞の示談書では、行為の種類ごとに数え方を決めました。
違反の数え方の例
| 行為 | 1回の数え方 | 考え方 |
|---|---|---|
| 面会・訪問 | 1件ごとに1回 | 一つ一つが独立した行為である |
| 待ち伏せ・見張り | 同じ日に同じ場所で行ったものは1回 | その場にとどまる行為を、時間で細かく数えない |
| 電話・SNS・メッセージでの連絡 | 同じ日のものは、方法や件数を問わず1回 | 短時間に何通も送ると数が膨らむのを防ぐ |
| SNSのつながりの未解除 | 解除するまでの期間を通じて1回 | 状態が続いているだけで、日ごとに新たな行為があるわけではない |
| 口外 | 開示した相手ごとに1回 | 相手が増えるほど広がりが大きくなる |
| インターネットへの投稿 | 1件ごとに1回 | 投稿ごとに不特定多数に届く |
保護対象者からの連絡に応答した場合の違反と、元の連絡の違反とが二重に数えられないよう、数え方を整理しています。
これとは逆に、違反の状態が続いていること自体を重く見る書き方もあります。同じ職場で起きた不貞をめぐる示談書や、既婚であることを伏せた交際をめぐる示談書では、継続的・反復的な違反については、その状態が続く限り1日ごとに1回(新たな違反)と数えるとしています。夫婦間の誓約書には、不貞の相手方ごとに独立した違反とし、同じ相手であっても別個と評価される行為はそれぞれ別の違反とする、と書いたものもあります。
どの数え方を選ぶかで、同じ違反でも請求できる額は何倍にも変わります。日ごとに数える書き方は強い抑止になる一方、額が膨らみすぎると、後で述べるとおり、金額が過大として争われる原因にもなります。行為の性質に合わせて、「その行為を何回したと言えるか」を素直に数える書き方を基本にしています。
金額の考え方:段階を分け、極端な額を避ける
違約金の額は、当事者が自由に決められるのが原則です。けれども、行為の重さに比べて極端に高い額を決めると、公序良俗に反するとして無効とされたり(民法90条)、相当な額を超える部分の効力が否定されたりするおそれがあります。事務所のヒヤリングシートでは、違約金の希望額を伺う問いに、極端に高い金額は裁判所に減額又は無効とされるおそれがあるため、1回あたり数十万円の範囲をお勧めしている旨を書いています。
金額は、行為の重さに応じて段階を分けます。事務所の不貞の示談書では、面会・訪問・事業所への立入りを高い額、電話・SNSでの連絡・つながりの未解除を中程度の額、口外を中程度の額、インターネットへの投稿や誹謗中傷を高い額としました。顔を合わせる行為と、不特定多数に広がる行為を重く見る組み方です。
ヒヤリングの問い 違約金を決める
違約金の希望額はどのくらいですか。
この問いで決まること行為の種類ごとの金額の段階と、極端な額にならないかが決まる。
実際の損害が違約金を上回った場合に、別に請求できるようにしたいですか。
この問いで決まること「損害賠償額の予定ではない」と明記するか、予定として額を確定させるかが決まる。特に書かなければ予定と推定され、それ以上は請求できない。
違反があったとき、相手方にどのくらいの期間で支払ってほしいですか。
この問いで決まること請求から支払までの期限(事務所の書類では14日以内とした例が多い)が決まる。
反対に、誓約書の中には、慎重に扱うべき書き方も見られます。配偶者の不貞相手に差し入れさせた誓約書には、不貞・接触・連絡の三区分で金額を分けて累積して適用し、上限を設けず、異議を述べないと書いたものがあります。成人と未成年者の不適切な関係をめぐる誓約書には、違反の内容・程度・結果を問わず一律に高額の違約金を課し、データの流出についても経路や過失を問わず争わないとしたものがあります。こうした書き方は、相手方に強い圧力をかける一方、上限がなく累積する違約金や、内容を問わない一律の高額の違約金は、金額が過大として争われるおそれを大きくします。差入れ型の誓約書では、受け取る側は何も約束しないため、違約金がかかるのは差し入れる側だけです。その分、差し入れる側に一方的に重い違約金を負わせる書き方になりやすく、金額の段階と上限を意識して書く必要があります。「異議を述べない」と書いても、裁判所が公序良俗に照らして判断することまで止められるわけではありません。
誰が払い、誰が請求でき、いつまでに払うのか
違約金を誰が払うのかも、書き方を誤りやすい点です。夫婦間の誓約書と不貞の相手方との示談書を組み合わせた案件では、示談書の当初の案で違約金を「甲乙が連帯して支払う」としていたところ、修正版で違反した当事者だけが支払う形に改めています。違反していない当事者にまで支払義務を負わせるのは、約束を守らせるという違約金の目的に合いません。
請求する側も、三者の示談書では書き分けが必要です。事務所の三者間の示談書では、違約金を請求できるのは「当該違反行為により害された当事者」としました。乙が丙に接触した場合と、乙が甲の悪口を広めた場合とでは、害される当事者が違うためです。事務所の不貞の三者版の示談書では、丙は違約金ではなく実際の損害の全額を請求できる形にしていましたが、丙が署名しない二者版に組み替えた際に、丙が請求する部分は削っています。
第○条(違約金)
1乙は、第○条(接触等の禁止)又は第○条(口外及び投稿の禁止)に違反したときは、甲に対し、別表に定める違反の区分及び回数の数え方に従い算定した違約金を、甲の請求の日から14日以内に支払う。
2前項の違約金は、損害賠償額の予定ではない。甲は、前項の違約金を超える損害(名誉又は信用の毀損による損害、及び合理的な範囲の弁護士費用を含む。)があるときは、その賠償を請求することができる。
3前二項の規定は、甲が乙に対し、違反行為の差止めその他の法的措置をとることを妨げない。
別表には、行為の区分ごとの金額と、1回の数え方を書きます。本文に数え方を書き込むと条が長くなりすぎるため、表に分けると読みやすくなります。
違約金がいつ発生するのかを書いておくこともあります。事務所が作成した相手方の誓約書では、違約金は「客観的資料その他合理的根拠に基づき違反が認められた場合」に発生し、請求の後14日以内に支払うとしました。違反を主張する側の一方的な判断で発生するのではないことを示しつつ、資料があれば請求できることをはっきりさせる書き方です。
実際に違約金を請求するときの手順も、条文から読み取れるようにしておきます。違反の事実(いつ、誰に、どんな行為があったか)と、別表のどの区分に当たり何回と数えるのかを示し、違約金の額と支払の期限、振込先を書面で伝える、という流れです。請求の日から支払の期限までの日数を決めておけば、期限を過ぎた日から遅延損害金が生じます。違反を示す資料(画面の記録、送受信の履歴など)は、請求の書面に全部を添える必要はありませんが、相手方が違反を否定したときに示せるよう、保存しておくことが前提になります。
違約金と、離婚時の慰謝料・財産の約束との関係
夫婦間の誓約書では、違約金と、将来離婚した場合の慰謝料や財産分与との関係を整理しておく必要があります。事務所が作成した夫婦間の誓約書では、違約金を損害賠償額の予定としたうえで、離婚した場合の慰謝料とは独立して発生し、一方が他方に影響しないと明記しました。違反があったときの措置(活動の休止、家族を交えた話合い)、違約金、離婚時の条件は、性質が違うため、それぞれ別の項に分けています。
ギャンブルによる共有財産の流用をめぐる夫婦間の誓約書では、依頼者から、違反したら全財産を渡すと書けないかというご相談がありました。全財産の譲渡は、公序良俗や暴利の観点から無効とされるおそれが大きいため、違約金に一本化しています。そのうえで、違約金の支払は、家計からの留保、充当、分割、離婚した場合の財産分与や慰謝料への組込み、相殺によって実際に回収できる形を考えました。夫婦の間では、違約金を払う側と受け取る側の家計が一つであることが多く、支払の方法まで決めておかないと、違約金を実際に回収できないことがあるためです。
違約金を分割で払う形を決めておく例もあります。特定の人物との接触と暴力を禁止する夫婦間の誓約書では、違反したときの「慰謝料」を予定額として定め、60回の分割と期限の利益の喪失まで決めていました。名目を「慰謝料」とするか「違約金」とするかで、離婚時の慰謝料と重なって二重取りではないかという争いを招くこともあります。違反したときに払う金銭の名目は、違約金として統一し、離婚時の慰謝料との関係を明記しておくのが安全です。夫婦間の誓約書の書き方は夫婦間の誓約書のページで扱います。
違約金と、差止め・他の約束との関係
違約金を払えば違反を続けてよい、ということにはなりません。事務所の示談書では、違約金の条に、違反行為の差止めその他の法的措置を妨げないという項を置いています。違約金は違反に対する金銭の手当てで、違反をやめさせる手段は別にある、という整理です。賠償額の予定についても、民法は、予定が履行の請求や解除権の行使を妨げないと定めています(420条2項)。
違約金の条を置くときは、違約金の対象となる約束と、対象とならない約束を区別しておきます。違約金の額を定めているのが接触禁止の条だけなのに、口外禁止や名誉の保護の条でも「違約金を請求する」と書いてしまうと、いくら請求できるのかが分かりません。どの条の違反に、いくらの違約金がかかるのかを、別表などで一覧にしておくと、このずれを防げます。また、違約金の支払が遅れた場合に備えて、遅延損害金の条も残しておきます。解決金の支払がすでに済んでいる示談書でも、違約金の支払はこれから生じ得るためです(受領確認と清算条項のページを参照)。
違約金と清算の条の関係も、依頼者からよく質問を受ける点です。示談書に「本件に関し一切の債権債務がない」という清算の条があっても、違約金の請求権は、示談書そのものに基づいて後から生じる権利なので、清算の対象には入りません。事務所の示談書では、清算の条の中で「本示談書に基づく権利義務(違約金及び損害賠償に係るものを含む。)」には清算が及ばないと明記し、この点を条文の上でもはっきりさせています。
さらに、違約金の条は、違約金の対象となる約束の側の例外や免責と連動させて読む必要があります。接触禁止の条で、偶然の遭遇は違反ではないとし、相手や場所を知らず過失もない場合は適用しないと定めていれば、その場面では違約金も発生しません。示談の履行に必要な連絡を例外として認めていれば、その連絡も違約金の対象外です。違約金の条だけを厳しく書いても、対象となる約束の例外の書き方が曖昧なら、違約金を請求できる場面そのものが争いになります。違約金の別表を作るときは、対象となる約束の条の例外を見ながら、どの行為が何回の違反に当たるのかを確かめていきます。
違約金の条で起きがちなこと
違約金の条は、示談書の中で最も「強い」条に見えますが、強く書きすぎると、かえって効力を争われる原因になります。違約金の対象となる約束ごとに、予定か否か、1回の数え方、金額の段階を決めて一覧にし、違反を示す資料をどう残すかまで確かめておくことが大切です。違約金の額そのものより、違反があったときに当事者のどちらが計算しても同じ額になる条文であることが、トラブルの日には役に立ちます。
よくあるご質問
違約金はいくらまで設定できますか?
金額を一律に区切る法律の規定はありません。ただ、行為の重さに比べて極端に高い額は、公序良俗に反する(民法90条)などとして、減額されたり無効とされたりするおそれがあります。事務所のヒヤリングでは、1回あたり数十万円の範囲をお勧めし、行為の種類ごとに段階を分けています。
違約金と、実際の損害の賠償は、両方請求できますか?
書き方によります。違約金は、特に定めがなければ損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、その場合は原則として違約金を超える損害は請求できません。両方を請求できるようにしたいなら、違約金は損害賠償額の予定ではないと明記します。
連絡のたびに違約金がかかる書き方は有効ですか?
1回の数え方を決めておくことが大切です。事務所の示談書では、電話やSNSでの連絡は同じ日のものを方法や件数を問わず1回と数えるなど、行為ごとに数え方を決めています。数え方を決めずに件数ごとに数えると、額が膨らみすぎて争いの原因になります。
違約金を分割で払うことにできますか?
できます。事務所の書類には、違約金の支払を家計からの留保・充当・分割で行い、離婚した場合の財産分与や慰謝料への組込みや相殺で回収できるようにした夫婦間の誓約書や、違反時の支払を分割と期限の利益の喪失まで決めた例があります。
「違反したら全財産を渡す」と書けますか?
公序良俗や暴利の観点から無効とされるおそれが大きい書き方です。事務所が作成した夫婦間の誓約書では、全財産の譲渡ではなく違約金に一本化し、支払の方法を具体的に決める形にしました。
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