このページの要点
- 第三者への開示と、不特定多数が見られる媒体への投稿を項で分け、匿名・消える投稿・推知できる投稿も含める。
- 例外は「正当な理由」ではなく、親族への相談・専門家・手続・権利の行使などを号で列挙する。
- 誹謗中傷の禁止は、虚偽の事実の摘示と侮辱的な表現に絞り、手続での主張と専門家への相談を除く。
- データは種類と保存場所を列挙し、表明保証・画面や履歴の提示・協議による確認作業で確かめる。
結論:口外と投稿を分け、例外を列挙し、データは「確かめ方」まで書く
示談書の口外禁止の条は、「甲及び乙は、本件について第三者に口外しない」という1文で済まされがちです。けれども、この1文を双方に課すと、被害を受けた側が自分の親や友人に相談することまで違反になりかねません。反対に、相手方がインターネットに匿名で書き込んだ場合や、名前を出さずに当事者が分かる書き方をした場合に、違反に当たるのかが読み取れません。
事務所の口外禁止の条は、特定の人に話す「口外」と、不特定多数が見られる場所への「投稿」とを分けて書き、口外してよい場面を例外として列挙します。誹謗中傷の禁止は、禁止する表現を絞って書きます。そして、相手方が持っている写真や録音などのデータについては、削除を約束させるだけでなく、削除されたことをどう確かめるかまで書きます。
このページでは、口外と投稿の書き分け、例外の列挙、誹謗中傷の禁止の範囲、すでにある投稿の削除、データの削除と確認の手続を、事務所の示談書・誓約書・合意書から整理します。事業者が取引先や従業員に求める秘密保持の書き方ではなく、トラブルの当事者どうしの約束としての口外禁止を扱います。接触の禁止は接触禁止の条項、違反したときの違約金は違約金の設計のページで扱います。
「口外」と「投稿」を分けて書く
事務所の不貞の示談書では、口外禁止の条を二つの項に分けています。一つは、本件に関する事実を第三者に開示することの禁止です。もう一つは、インターネットの掲示板やSNSなど、不特定多数が閲覧できる媒体への投稿の禁止で、匿名での投稿や、一定時間で消える投稿も含めると明記しました。
二つを分ける理由は、広がり方と被害の大きさが違うからです。特定の人に話した内容は、その人を通じて広がるとしても範囲に限りがあります。インターネットに投稿された内容は、一瞬で不特定多数に届き、削除しても複製が残ることがあります。事務所の示談書では、違約金の額も、口外と投稿とで分けています。口外は相手ごとに1回、投稿は1件ごとに1回と数え方も変えました。
第○条(口外及び投稿の禁止)
1乙は、本件不貞行為に関する事実及び本示談書の内容(以下「本件情報」という。)を、第三者に開示してはならない。
2乙は、本件情報を、インターネット上の掲示板、SNSその他不特定又は多数の者が閲覧することができる媒体に投稿してはならない。匿名による投稿、一定時間の経過により消去される投稿、及び当事者の氏名を示さない場合であっても属性、時期その他の情報の組合せにより当事者を推知することができる投稿を含む。
「推知することができる投稿」まで含めるかどうかで、条の効き目が大きく変わります。名前を伏せても、職業や年代、出来事の時期を組み合わせれば、身近な人には誰のことか分かってしまうためです。
名前を出さない投稿の扱いは、既婚であることを伏せた交際をめぐる示談書でも重視しました。この示談書では、イニシャル、属性、時期などの組合せによって当事者を推知できる発信も禁止の対象とし、すでにある投稿の削除と、関係者にも同等の義務を守らせることを定めています。内定の取消しをめぐる示談書でも、個人が特定されない形での言及も秘密保持の対象に含めました。「名前を出していないから違反ではない」という言い分を、条文の段階で封じておく書き方です。
何を話してはならないのか:対象と期間、関係者の扱い
口外禁止の条では、話してはならない対象を定義します。事務所の示談書では、本件に関する事実だけでなく、示談書の内容(解決金の額や接触禁止の約束を含む)も対象に含め、まとめて「本件情報」と呼んでいます。示談が成立したこと自体や金額が知られるだけでも、当事者にとっては不利益になることがあるためです。反対に、対象を「本件に関する一切の情報」と広げすぎると、当事者が自分の生活の出来事として周囲に説明することまで禁止に当たるように読めます。何を守りたいのかから、対象の範囲を決めます。
期間の定め方もさまざまです。不貞の示談書では期間を区切らないことが多い一方、法人の商用SNSアカウントの無断使用をめぐる和解の合意書では、秘密保持の義務を、情報を知った日から5年間としました。個人の私生活に関する情報は時間がたっても守る必要が残りやすく、取引に関する情報は時間とともに価値が下がりやすい、という違いが表れています。期間を定めない場合でも、例外の列挙によって、守れる条項にしておくことが大切です。
もう一つ考えておきたいのが、当事者でない人の扱いです。示談書に署名していない家族や友人、関係者は、その示談書に直接拘束されません。そこで事務所の書類では、当事者が関係者にも同等の義務を守らせる、相談した相手が口外すれば相談した本人の行為とみなす、といった形で、当事者自身の責任として書いています。関係者に直接義務を課すような書き方をしても、その人を拘束することはできないためです。当事者でない人に義務を課す書き方の限界は、誓約書で約束しても効かないことのページで扱います。
例外を列挙する:家族への相談・専門家・手続
口外禁止を双方に課す場合、最初に考えるべきなのは、被害を受けた側が誰に話せなくなるかです。事務所のヒヤリングシートでも、口外禁止を双方に課すと、依頼者が家族や友人に相談することも違反になり得ることを注記したうえで、意向を伺っています。事務所の不貞の示談書では、口外してよい場面を、次の6つの号で列挙しました。
- 法令に基づく場合、官公署から求められた場合
- 守秘義務を負う専門家に相談する場合
- 甲が自己の二親等内の親族に相談する場合
- 甲と丙の間で共有する場合
- 自己の権利を行使し、又は防御するために必要な場合
- 求償の請求のために必要な範囲で開示する場合
あわせて、甲が親族に話したときは、その親族にも口外しないよう求める義務を置いています。「甲と丙の間で共有する場合」を例外に入れておけば、丙が署名しない二者間の示談書でも、甲が配偶者と事実を話し合うことは違反になりません。夫婦が今後のことを話し合うには、示談の内容を共有することが欠かせません。例外で話してよい相手を作る代わりに、その先へ広がらないための手当てです。
例外の書き方には、もう一つ、「正当な理由がある場合を除き」と包括的に書く方法があります。事務所の書類にも、双方に口外禁止を課し、「正当な理由がある場合を除き」とした示談書があります。包括的な書き方は柔軟ですが、何が正当な理由に当たるのかが争いになります。先に挙げた示談書では、「正当な理由なく」という包括的な文言は使わず、例外を列挙する方式をとっています。違約金が付いている条ほど、例外の範囲を読み手によって変わらない書き方にしておくことが大切です。
口外禁止を相手方だけに課すか、双方に課すかも、最初に決める点です。相手方だけに課せば、被害を受けた側は自由に相談できますが、相手方から「こちらだけが縛られるのは不公平だ」と言われ、署名を得にくくなることがあります。双方に課せば署名は得やすくなりますが、例外を丁寧に列挙しなければ、被害を受けた側の生活が窮屈になります。すでに事情を知っている人と今後相談する可能性のある人を先に書き出し、その人たちへの開示を例外に入れられるかを確かめてから、双方に課すかどうかを決めるのが順序です。
事務所の書類に見られる口外禁止の例外
| 例外の型 | 書き方 | あわせて置いた約束 |
|---|---|---|
| 私的な相談 | 自己の精神的負担の軽減や生活上の必要から、配偶者・直系親族等の信頼できる者に、私的な相談として開示する(最終版で追加) | 開示を求められても事実を認めず回答しない義務。相談を受けた人が口外すれば、開示した本人の行為とみなす |
| 履行の確認 | 示談の履行を確認するために必要な範囲で、家族等に限って開示する | 開示先を限定する |
| 法令・公的機関・専門家・承諾 | 法令に基づく場合、公的機関への対応、専門家への相談、相手方の書面による承諾がある場合 | 承諾は書面に限る |
| 説明の義務と組み合わせる | 当事者が自分の両親に事実を説明する義務を負う場合、その説明は口外禁止の例外として扱う。相手方の親族がすでに知っていた場合を違反としない | 説明の期限と方法を別の条で定める |
表の一つ目の書き方は、同じ職場で起きた不貞をめぐる示談書で、最終版に加えたものです。精神的な負担を一人で抱えないために信頼できる人に相談することを認めつつ、相談を受けた人が口外した場合には、相談した本人の行為とみなします。例外を認める範囲と、例外から生じる広がりへの責任とを一体で書いた例です。表の最後の書き方は、交際中の出来事をめぐる合意書で、当事者が自分の両親に事実を説明する義務を負っていたため、その説明を口外禁止の例外とし、相手方の親族がすでに知っていた場合を違反としない旨を最終版で加えたものです。
ヒヤリングの問い 口外禁止の範囲を決める
口外禁止は、相手方だけに課しますか。双方に課しますか。
この問いで決まること双方に課すなら、ご自身が話せなくなる相手と、例外として残すべき相手が決まる。
すでに事情を話している家族や友人はいますか。
この問いで決まること例外の相手と、すでに知っている人について違反としない一文の要否が決まる。
今後、誰に相談する可能性がありますか。
この問いで決まること親族の範囲(二親等内など)や、専門家への相談の例外の書き方が決まる。
相手方がインターネットに書き込むおそれはありますか。
この問いで決まること投稿の禁止の項と、推知できる投稿・匿名の投稿まで含めるかが決まる。
誹謗中傷の禁止は、禁じる表現を絞って書く
口外禁止と並んで置かれることが多いのが、誹謗中傷の禁止です。「相手方の名誉を害する一切の言動をしない」と広く書くと、真実を述べることや、裁判の手続で自分の主張をすることまで禁止に当たるように読めてしまいます。事務所の不貞の示談書では、誹謗中傷の禁止を、虚偽の事実を示すことと侮辱的な表現をすることに限り、法令上の手続での主張と、専門家への相談は除外しました。
SNS上の虚偽の投稿をめぐる示談書では、今後、誹謗中傷や虚偽の情報の流布をしないことを、再発の防止として誓約させています。投稿による被害の示談では、誹謗中傷の禁止が、示談書の中心の約束になります。
反対に、発信を仕事にしている人どうしの紛争では、何も説明できないことが、かえって第三者の誤解を招くことがあります。クリエイターの間の紛争を終わらせる合意書では、最終版で、第三者の誤解を防ぐために、相手方の名誉を害しない範囲で客観的な事実を説明し、公表できる例外を加えました。説明や公表をする場合は、事前に相手方に通知し、協議するよう努めることもあわせて定めています。黙っていることを求めるだけでなく、どういう形なら話してよいかを決めておく書き方です。三者の書面で誹謗中傷を禁止する場合は、「相手方」ではなく「他の当事者」と書き、誰に対する誹謗中傷を禁じるのかを明確にします(書面の種類と当事者の組み方のページを参照)。
すでにある投稿の削除と、削除しても残る責任
示談の時点ですでに投稿がされている場合は、削除の義務を置きます。既婚であることを伏せた交際をめぐる示談書では、すでにある投稿を削除する義務を置いたうえで、関係者にも同じ義務を守らせることを定めました。別の示談書では、禁止に反して情報を発信した場合の削除の義務を定め、削除しても違約金や損害賠償の責任は免れないと明記しています。削除すれば責任がなくなると受け取られると、投稿してから削除する、という行動を防げないためです。
第○条(投稿の削除)
1乙は、本示談書締結の日において本件情報を含む投稿が存在するときは、締結の日から○日以内にこれを削除し、削除した旨を甲に書面で報告する。
2乙が前条の規定に違反して投稿をしたときは、乙は、直ちにこれを削除しなければならない。この場合において、乙は、削除したことを理由として、違約金及び損害賠償の責任を免れない。
発信を続ける人どうしの紛争では、過去の配信や投稿(アーカイブ)の扱いも問題になります。クリエイターの間の合意書では、最終版で、アーカイブの保存と再利用を制限する条を新しく設けました。新しい投稿を禁止しても、過去の配信が公開されたままでは、紛争の火種が残り続けます。何を、いつまでに、どこから消すのかを、媒体ごとに具体的に書きます。
写真・録音などのデータの削除と、確かめ方
相手方が当事者の写真や動画、録音、やり取りの記録を持っている場合、示談書でその削除を約束させることがよくあります。けれども、「削除した」という相手方の言葉だけでは、本当に消えたのかを確かめようがありません。事務所の書類には、削除の約束を確かめるための仕組みを、いくつかの方法で書いたものがあります。
データの削除を確かめる書き方
| 書き方 | 内容 | 使った場面 |
|---|---|---|
| 表明保証と確認の手続 | 画像・映像・録音・SNSの記録を保有していないこと、完全に削除したことを表明し保証する。疑いがある場合は、確認の方法・範囲・手段を協議したうえで確認作業を行う | 特定の日の出来事と記録データをめぐる私的なトラブルの示談 |
| 媒体の列挙と提示の義務 | 削除の対象を、端末、バックアップ、クラウド、SNSのサーバー上の履歴、外部記憶媒体と列挙し、求めがあれば画面の表示や削除の履歴などを提示する。関連するアカウントを削除し、再び作らない | 成人と未成年者の不適切な関係をめぐる誓約書 |
| 求めに応じた削除・廃棄 | 相手方の求めに応じて、資料を削除し、又は廃棄する | 同じ職場で起きた不貞をめぐる示談 |
表明保証とは、ある事実が真実であることを約束し、それが違っていた場合には責任を負うという約束です。データの削除は、完全に確かめることが難しいため、「保有していない」「削除した」という事実そのものを約束させ、後で残っていたことが分かれば責任を問えるようにします。確認の手続を置く場合も、何をどこまで見せるのかを当事者の協議で決める形にしておくと、確認そのものがプライバシーの新たな侵害にならずに済みます。
削除の約束を双方に課す場合には、もう一つ注意が要ります。被害を受けた側が持っているやり取りの記録や画面の記録は、相手方が今後約束を破ったときに、違反の事実を示す資料になり得ます。事務所は、違約金を請求するには違反の事実を示す資料が必要になるため、資料を保存しておくよう依頼者にお伝えしています。双方に一律の削除を課すと、その資料まで消さなければならないように読めてしまいます。削除の対象を相手方が持つデータに限るか、双方に課すなら、権利の行使や防御に必要な資料は残してよいと、例外の形で明記します。相手方に写真やデータの削除と削除の報告を求めるかどうかを決めるときは、ご自身の側で残しておくべき資料があるかも、あわせて確かめておきたいところです。
データの削除の条を書くときに確かめること
- 削除の対象となるデータの種類(写真、動画、録音、メッセージの記録など)を挙げているか。
- 保存されている場所(端末、バックアップ、クラウド、SNS、外部記憶媒体)を挙げているか。
- 削除の期限と、削除したことの報告の方法を決めているか。報告の方法が、接触禁止の例外の連絡方法と合っているか。
- 削除を確かめる方法(画面の提示、削除履歴の提示、協議による確認作業)を決めているか。
- 後で残っていたことが分かった場合の扱い(表明保証の違反として違約金や損害賠償の対象にする)を書いているか。
口外禁止・データの削除で起きがちなこと
口外禁止の条は、相手方を縛る条であると同時に、自分を縛る条でもあります。誰が誰に何を話せなくなるのかを一覧にし、話してよい相手と場面を例外として書き出したうえで、投稿とデータの扱いを別の項に分けると、トラブルを終わらせた後も当事者がそれぞれの生活を続けられる条項になります。投稿による被害そのものを示談で解決する場面は、刑事事件・SNSのトラブルの示談書のページで扱います。
よくあるご質問
口外禁止を双方に課すと、家族に相談することもできなくなりますか?
例外を書かなければ、家族への相談も違反になり得ます。事務所の示談書では、被害を受けた側が二親等内の親族に相談する場合や、守秘義務を負う専門家に相談する場合などを例外として列挙し、親族に話したときは口外しないよう求める義務をあわせて置いています。
匿名で書き込んだ場合も違反になりますか?
示談書でそう定めれば違反になります。事務所の示談書では、投稿の禁止に匿名での投稿や一定時間で消える投稿を含め、名前を出さなくても属性や時期などの組合せで当事者を推知できる投稿も禁止の対象にしています。
「正当な理由がある場合を除き」と書くのではいけませんか?
書くこと自体はできますが、何が正当な理由に当たるのかが争いになりやすい書き方です。違約金が付く条では、口外してよい場面を号に分けて列挙する方式のほうが、読み手によって範囲が変わりにくくなります。
相手が持っている写真やデータの削除は、どう約束させればよいですか?
削除の対象となるデータの種類と保存場所を列挙し、削除の期限と報告の方法を決めます。確かめる方法として、保有していないことの表明保証、求めに応じた画面や削除履歴の提示、協議による確認作業を置く書き方があります。
投稿を削除してもらえれば、違約金は請求できなくなりますか?
示談書の書き方によります。事務所の書類には、禁止に反して発信した場合は削除する義務を負い、削除しても違約金や損害賠償の責任を免れないと明記した例があります。削除すれば責任がなくなる書き方では、投稿してから削除する行動を防げません。
あわせて読みたい、関連する別のガイド
- 返還・廃棄・証明:期限・例外・確認の三つで組み立てるNDA(秘密保持契約)・守秘義務誓約書ガイド
- 撮影・SNS・スクリーンショット・アカウント:漏れる行為を名指しするNDA(秘密保持契約)・守秘義務誓約書ガイド
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の書面への当てはめは、当事者の関係や事実の経過によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・改訂・レビューしてきた不貞の示談書(二者間・三者間)、夫婦間の誓約書・合意書、相手方の差入れ誓約書、交際・婚約・内縁の解消の示談書と合意書、離婚協議書と公正証書の原案、認知と養育費の合意、刑事事件になりうるトラブル・SNS上の被害の示談書、内容証明・通知書、事実関係整理メモ、ヒヤリングシート等に基づき、当事者が特定できないよう一般化しています。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索