このページの要点
- 内縁か同棲かを確かめ、関係の確認と解消の条を置く。清算の範囲に関係の解消と住まいの精算を含める。
- もう住んでいない部屋の家賃の精算という名目は不自然になりやすい。解決金に精算の趣旨を含めるなど、名目を選ぶ。
- 鍵の本数、退去日、荷物の引取りに入れる人と期限、期限後の処分の費用まで書き、貸主との関係は変わらないと明記する。
- 既婚を伏せた交際では、相手の配偶者からの請求を相手方の責任と費用で処理し補償する条と、通知の義務を置く。
結論:法律婚でない関係の解消は「関係の確認」「共同生活の後始末」「第三者への備え」を書く
結婚の届出をしていない関係、つまり内縁、婚約、交際の解消にも、示談書が必要になる場面があります。法律婚の離婚であれば、財産分与や子の監護といった民法の決まりに沿って話を進められますが、法律婚でない関係では、何を根拠に何を請求できるのかが、関係の実態によって大きく変わります。そのため、示談書では、まず二人の関係がどういうものだったのかを確認するところから始めます。
共同生活をしていた場合は、住まい、鍵、家具や私物、家賃や費用の分担といった、生活の後始末を一つずつ決める必要があります。婚約の解消では、婚約の指輪や、準備のために支出した費用の分担が問題になります。そして、相手が既婚であることを伏せていた交際では、相手の配偶者から自分が請求を受けるおそれにも備えなければなりません。
このページでは、内縁の解消で確かめること、解決金の名目の決め方、共同生活の後始末、婚約の解消と費用の分担、家族への説明を約束する条項、既婚を伏せた交際の示談と第三者からの請求への備えを、事務所の示談書・誓約書・合意書から整理します。示談書全体の組み立ては書面の種類と当事者の組み方、支払と清算の書き方は受領確認と清算条項のページで扱います。
内縁の解消:最初に確かめること
内縁とは、婚姻の届出はしていないものの、婚姻の意思をもって夫婦としての共同生活を営んでいる関係をいいます。単なる同棲とは、婚姻の意思の有無で区別されます。内縁にあたるかどうかで、関係の解消や相手の不貞について慰謝料を求める根拠の考え方が変わるため、示談書の前提として、二人の関係の実態を確かめておく必要があります。
事務所が内縁の解消・不貞・二人の名義で借りていた部屋の精算をまとめて扱った案件では、ヒヤリングシートを8つの項目、31の問いで構成しました。主な問いと、その問いで決まることは次のとおりです。
ヒヤリングの問い 内縁の解消の示談書を作るために
同居を始めた時期はいつですか。
この問いで決まること共同生活の期間と、関係の確認の条に書く事実が決まる。
二人の関係は、婚姻の意思のある内縁と、同棲のどちらだと受け止めていますか。
この問いで決まること慰謝料を求める根拠の考え方と、関係の確認の条の書き方が決まる。
婚約、両家へのあいさつ、家計の一体の管理はありましたか。
この問いで決まること内縁を裏付ける事実として、何を確認の条に書けるかが決まる。
録音などの資料は、どのような方法で取得しましたか。
この問いで決まること適法に取得した資料として、示談書や通知書の前提にできるかが決まる。
賃貸借契約の借主の欄は、どう書かれていますか(連帯借主か、同居人か)。
この問いで決まること部屋の精算の条で、貸主との関係をどう扱うかが決まる。
今後、部屋の名義を変える予定はありますか。
この問いで決まること名義の変更への協力の条が要るかが決まる。
金額は「解決金(慰謝料)」と書きますか、「家賃負担分の精算金」と書きますか。
この問いで決まること解決金の名目と、清算の範囲の書き方が決まる。
相手は、話合いに応じていますか。
この問いで決まること双方が合意する「示談書」にするか、こちらから意思を伝える「通知書」にするかが決まる。
相手の荷物の引取りの期限と、期限を過ぎた場合の処分について、承諾を得られそうですか。
この問いで決まること残置物の引取りと処分の条の書き方が決まる。
相手の不貞の相手方への請求は、この示談とは切り分けますか。
この問いで決まることこの示談書の清算の範囲から、不貞の相手方との関係を外すかが決まる。
書面の送付は、事務所が発送の事務だけを行う形にとどまり、相手方との交渉や説明はできないことも、ヒヤリングシートに明記しています。
示談書には、内縁の関係があったこととその解消を確認する条を置きます。この案件では、清算の範囲に「内縁関係及びその解消並びに建物に関する事項」を含め、関係の解消と住まいの精算を一つの示談書で終わらせる形にしました。不貞の相手方への請求は別の問題として扱うことを、清算の範囲の書き方で示しています。
第1条(内縁関係の確認と解消)
1甲及び乙は、○年○月頃から○年○月○日までの間、婚姻の意思をもって共同生活を営む内縁関係にあったことを確認する。
2甲及び乙は、本示談書の締結をもって、前項の内縁関係を解消することを確認する。
関係の確認の条は、後に続く解決金や清算の範囲の前提になります。始まりと終わりの時期を書き、「内縁関係」という言葉を後ろの条でも同じ意味で使います。
解決金の名目:慰謝料か、精算金か
法律婚でない関係の解消では、支払う金銭の名目をどうするかが、当事者の受け止め方に大きく影響します。先の案件では、相手方が月々一定の額を払うという話になっており、それを家賃の負担分の精算として書くかどうかが問題になりました。けれども、相手方はすでにその部屋に住んでいません。もう住んでいない部屋の家賃の精算として月々払い続けるのは、経済的に見て不自然です。事務所は、実質は不貞に基づく慰謝料の分割の支払と整理できることをご説明したうえで、名目の書き方についての意向を伺いました。
最終的な示談書では、「解決金」とし、その解決金には、二人の名義で借りていた部屋の使用相当額の精算の趣旨を含むと明記しました。慰謝料の趣旨と精算の趣旨の両方を一つの解決金に含め、どちらの趣旨の支払なのかで後から争いにならないようにする書き方です。名目は、当事者が受け入れやすいことと、後で読み返したときに何の支払だったかが分かることの、両方を満たすように選びます。
名目の選び方と、書面に残る意味
| 名目 | 書面から読み取れること | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 慰謝料 | 相手方の行為によって精神的な苦痛を受けたことに対する賠償 | 相手方が責任を認めており、そのことを書面に残したい |
| 解決金 | 争いを終わらせるための金銭。責任の有無や程度を書面で確定させない | 相手方が責任を認めることに抵抗がある、又は複数の趣旨を含めたい |
| 精算金 | 共同生活の費用など、特定の費用の負担を清算する金銭 | 実際に費用の立替えや負担の偏りがあり、その額を清算する |
| 解決金(精算の趣旨を含む) | 争いの解決と、特定の費用の精算の両方を含む | 慰謝料と費用の精算が混ざっており、一つの金銭で終わらせたい |
名目を決めたら、示談書の中で同じ言葉を使い続けます。前文で「解決金」と呼んだ金銭を、支払の条で「慰謝料」、清算の条で「精算金」と言い換えると、それぞれが別の金銭を指すと読まれるおそれがあります。分割で支払う場合は、毎回の支払が解決金の一部であることを書き、何回目の支払でいくら残っているのかを当事者が確かめられるようにしておきます。
共同生活の後始末:鍵・退去・荷物・二人の名義の部屋
共同生活をしていた二人が別れるとき、示談書で決めておかないと後で揉めるのが、住まいの後始末です。先の案件の示談書では、次のような条を置きました。
内縁の解消の示談書に置いた、住まいの後始末の条
- 鍵の交換の費用の負担と、鍵の返還。スペアキーを作っていた場合も含めて、返還する鍵の本数を特定する。
- 相手方が退去する日。
- 退去した後の賃料は、残る側が単独で負担すること。
- 次回の更新の際に、残る側の単独の名義に変更することへの協力。
- 敷金の精算は、残る側が負担すること。
- この条が決めるのは二人の内部での負担の割合だけで、貸主や管理会社に対する権利義務は変わらないこと。
- 残る側が賃料を払わず、相手方が貸主から請求を受けた場合の補償。
- 相手方の荷物の引取り。部屋に入ることができる人を、相手方本人と、依頼者と面識のある相手方の家族に限り、前日までに連絡する。
- 引取りの期限を過ぎた荷物は、相手方が所有権を放棄したものとして処分でき、処分の費用は相手方が負担すること。
修正版では、返還する鍵の本数の特定、部屋に入ることができる人の限定、処分の費用の負担を加えました。鍵の本数が書かれていなければ、スペアキーが残っていないかという不安が残ります。部屋に入ることができる人を限らなければ、荷物の引取りの名目で、見知らぬ人が部屋に入ってくるおそれがあります。
二人の名義で部屋を借りている場合に押さえておきたいのは、示談書で決められるのは二人の間の負担の割合だけで、貸主との関係は変えられない、という点です。示談書で「退去した後の賃料は残る側が負担する」と決めても、名義が変わるまでは、貸主は出ていった側にも賃料を請求できる可能性があります。そのため、残る側が払わなかった場合の補償の条を置き、名義の変更への協力を約束させています。
荷物の引取りの期限を過ぎた後の扱いも、示談書で決めておく必要があります。相手方の物を相手方の承諾なく処分すれば、処分したことそのものが新たな争いの種になりかねません。この案件のヒヤリングでも、相手方の荷物の引取りの期限と、期限を過ぎた場合の処分について承諾を得られそうかを伺っていました。示談書では、期限までに引き取られなかった物は相手方が所有権を放棄したものとして処分できること、処分の費用は相手方が負担することを定めています。期限の日付、引取りに入れる人の範囲、前日までの連絡とあわせて書いておけば、残された物の扱いのために当事者が改めて連絡を取り合う必要がなくなります。
婚約の解消と、費用の分担
婚約を解消するときには、婚約の指輪の扱いと、それまでに支出した費用の分担を書面にしておくと、後の争いを防げます。事務所が扱った婚約の解消に伴う誓約書では、次のような条が置かれています。
- 婚約の解消に伴う出来事について、双方が自由な意思で同意したことの確認。
- 婚約の指輪を返還する期限と、返還にかかる費用の負担。
- 相手方の私物を処分しないこと。
- 費用の分担の内訳。公的な給付で賄われない自己負担の部分、関連する費用の不足額の折半、仮住まい・トランクルーム・引越しの費用など。
費用の分担は、何の費用をどちらがどれだけ負担するのかを、項目ごとに書くことが大切です。この誓約書の修正版では、仮住まいの費用から、同居人やペットに係る分を除くことが明記されています。費用の名目だけを書いて、誰のための支出かを切り分けていないと、本来は分担の対象にならない支出まで含めて請求されるおそれがあります。公的な給付で一部が賄われる費用については、給付の額を差し引いた自己負担の部分を分担の対象とするなど、計算の方法まで書いておきます。
指輪や私物を返す約束は、返す方法まで決めておくことが大切です。返還の期限だけを書いて方法を決めていないと、受け渡しのために会う必要が生じ、関係を終わらせたい当事者どうしが再び顔を合わせることになります。郵送や宅配便で返すのか、第三者を通じて返すのか、送料などの費用をどちらが負担するのかを書き、返還の際の連絡の方法も限っておきます。接触禁止の条を置く場合は、返還のための連絡を例外として認める範囲を、接触禁止の条の側でも書いておきます(接触禁止の条項のページを参照)。
婚約の解消には、当事者の心身に関わる出来事が伴うこともあります。そうした事柄を書面にするときは、当事者のどちらかを責める書き方を避け、双方の自由な意思によるものであることを確認したうえで、費用と物の扱いを淡々と書くことを心がけています。
家族への説明を約束する条項
交際中の出来事をめぐる合意書では、慰謝料の支払と、すでに支払われた費用の受領の確認に加えて、当事者の一方が自分の両親に事実を説明する、という作為の義務(何かをする義務)を置いたものがあります。何かを「しない」約束と違って、何かを「する」約束は、いつまでに、どうすれば果たしたことになるのかを書いておかないと、守られたかどうかが分かりません。この合意書では、説明の期限、毎月の報告、説明ができない場合の代替の措置、義務が消える場合(消滅の事由)を定めていました。
最終版では、説明の期限を延ばし、両親が亡くなった場合や交際が終わった場合には義務が消えること、合意書の存在を両親に伝えるかどうかは本人の判断に委ねることを加えています。作為の義務は、本人の家族関係に踏み込む約束です。守れる期限と方法にし、事情が変われば義務がなくなる出口を書いておくことが、約束を現実に守られる形にするための工夫です。あわせて、この説明は口外禁止の例外として扱い、相手方の親族がすでに事実を知っていた場合も違反としないことが加えられています(口外禁止・データの削除のページを参照)。
既婚を伏せた交際の示談:相手の配偶者からの請求への備え
交際相手が既婚であることを伏せていた、又は告げていなかった、という交際の示談書では、相手の配偶者から自分が慰謝料を請求されるおそれへの備えが中心になります。既婚と知らずに交際していた場合でも、相手の配偶者から請求を受けることはあり得ます。事務所の書類に見られる備えの書き方は、次のとおりです。
既婚を伏せた交際の示談書の主な条
| 条 | 書き方 | 使った場面 |
|---|---|---|
| 第三者からの請求の処理 | 相手方の配偶者その他の第三者から請求があった場合は、相手方が自己の責任と費用で処理し、生じた損害を全額補償する。請求のおそれがあれば、直ちに通知する | 既婚の事実を秘匿した交際の示談書 |
| 配偶者等からの請求の解決 | 相手方の配偶者等からの請求は、相手方の責任と負担で解決し、損害を賠償する条を修正版で追加する | 婚姻の不告知を契機とする交際の示談書 |
| 相互の接触禁止 | どちらの側からも連絡や接触をしない。専門職を通じた必要最小限の連絡は除く | 既婚を伏せた交際の示談書 |
| 連絡先の削除 | 署名と支払が完了した時点で、互いの連絡先を削除する(修正版で追加) | 婚姻の不告知を契機とする交際の示談書 |
| 推知できる発信の禁止 | イニシャル・属性・時期などの組合せで当事者を推知できる発信も禁止し、既存の投稿を削除する | 既婚の事実を秘匿した交際の示談書 |
| 支払の期限 | 署名押印が完了したことを確認してから3営業日以内に振り込む | 既婚を告げない交際の示談書 |
第三者からの請求の処理の条は、相手方の配偶者のように、示談書の当事者でない人からの請求を、当事者の間でどう分担するかを決める条です。相手の配偶者がこの示談書に拘束されるわけではないため、請求そのものを止めることはできません。けれども、請求を受けたときに、その処理の責任と費用を相手方が負い、損害を補償すると約束させておけば、自分が負担する結果を避ける手段になります。請求のおそれを知った側が直ちに通知する義務も、対応の遅れを防ぐために置きます。
第○条(第三者からの請求)
1本件交際に関し、乙の配偶者その他の第三者が甲に請求をしたときは、乙がその責任と費用で対応し、甲に生じた一切の損害を補償する。
2前項の請求のおそれを知った甲又は乙は、直ちにその旨を他方に知らせる。
1項は乙が負う約束で、第三者の請求そのものを止めるものではありません。補償の対象となる損害に、対応のために要した費用を含めるかどうかも書いておくと、後の精算が明確になります。
支払と署名の順番も、交際の示談書では事案によって分かれます。婚姻の不告知を契機とする交際の示談書では、面会のうえで現金による一括の支払と署名を同時に行う形がとられています(同時履行の書き方は受領確認と清算条項のページを参照)。これに対し、既婚を告げない交際の別の示談書では、署名押印が完了したことを確認してから3営業日以内に振り込む、という順番になっています。顔を合わせて受渡しをするか、署名を先に済ませて振込を待つかは、当事者が会うことの負担と、支払が確実に行われるかどうかの見込みとのつり合いで決めます。会わずに済ませる場合は、振込の期限を営業日で区切り、期限までに振込がなければどうなるのかまで書いておきます。
未婚の妊娠の場面のように、交際の解消と同時に、認知や養育費を決める必要がある場合もあります。認知の前の示談書には、認知、養育費、出産の前後の協力、子との交流がまとめて書かれがちですが、養育費を強制執行できる形にするには、毎月の定額の支払として公正証書にするなどの方法をとります。認知と養育費の合意の書き方は離婚協議書・養育費と公正証書のページで扱います。
交際・婚約・内縁の解消で起きがちなこと
法律婚でない関係の解消は、決まった手続がない分、示談書が二人の関係の終わり方そのものを決めます。事務所は、まず関係の実態と共同生活の範囲を確かめ、そのうえで、お金、住まい、物、家族、第三者という順に、後に残るものを一つずつ書き出してから条文にしています。
よくあるご質問
内縁関係の解消でも、慰謝料の示談書は作れますか?
作れます。内縁は、婚姻の届出はしていないものの、婚姻の意思をもって夫婦としての共同生活を営む関係です。示談書では、内縁の関係があったこととその解消を確認する条を置き、同居の時期、婚約や家計の一体の管理の有無など、関係の実態をヒヤリングで確かめてから書きます。
二人の名義で借りている部屋は、示談書でどう清算すればよいですか?
示談書で決められるのは二人の間の負担の割合だけで、貸主との関係は変わりません。事務所の示談書では、退去日、退去後の賃料の負担、名義の変更への協力、敷金の精算の負担、残る側が払わなかった場合の補償、荷物の引取りと処分を定めています。
既婚を隠されていた交際の示談で、相手の配偶者から請求されたらどうなりますか?
相手の配偶者は示談書に拘束されないため、請求そのものを止めることはできません。事務所の書類では、第三者から請求があった場合は相手方が自己の責任と費用で処理し、損害を全額補償する条と、請求のおそれがあれば直ちに通知する条を置いています。
婚約を解消するとき、指輪や費用の分担は書面にすべきですか?
書面にしておくと後の争いを防げます。事務所が扱った誓約書では、婚約の指輪の返還の期限と費用の負担、私物を処分しないこと、費用の分担の内訳が定められ、仮住まいの費用から同居人やペットに係る分を除くことが明記されています。
支払う金銭は「慰謝料」と「解決金」のどちらで書くべきですか?
相手方が責任を認めているなら慰謝料、責任の有無を確定させずに争いを終わらせたい、又は複数の趣旨を含めたいなら解決金が向いています。事務所の示談書には、解決金に部屋の使用相当額の精算の趣旨を含むと明記した例があります。
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