このページの要点
- 保護対象者を子や二親等内の親族まで定義し、面会・通話・SNSでの反応・待ち伏せ・第三者を介した行為などを号で列挙する。
- 偶然の遭遇は立ち去る義務に置き換え、不知・無過失の場合と、履行に必要な連絡の通り道を例外として書く。
- 締結後7日以内のSNSのつながりの解除と、保護対象者からの連絡への応答の禁止を置く。
- 同じ職場なら業務上必要不可欠な範囲を例外とし、私的な接触には及ばないことをセットで書く。
結論:「一切接触しない」ではなく、守る人・禁じる行為・違反にしない場面を書く
示談書や誓約書の接触禁止の条は、「乙は、今後一切、丙と接触しない」と1行で書かれていることが少なくありません。けれども、この1行では、SNSで投稿に「いいね」を付けることは接触なのか、共通の知人を通じて近況を尋ねることは接触なのか、街で偶然出会ったときはどうなるのか、相手から電話がかかってきて出たら違反なのか、といった問いに答えられません。違約金が付いている条ほど、こうした場面が争いになります。
事務所の接触禁止の条は、三つの要素で組み立てています。誰を守るのか(保護の対象)、どんな行為を禁じるのか(禁止行為の列挙)、そしてどんな場面は違反にしないのか(例外と免責)です。三つ目を書かずに禁止だけを広げると、生活や仕事への影響が大きすぎる条項として効力を争われたり、示談の履行に必要な連絡まで違反になったりします。
このページでは、保護の対象と禁止行為の書き方、偶然の遭遇や不知の場合の扱い、SNSのつながりの解除と相手からの連絡への対応、同じ職場や取引関係がある場合の例外、三者の関係での書き分けと期間を、事務所の示談書・誓約書・通知書から整理します。違反したときの違約金は違約金の設計、口外や投稿の禁止は口外禁止・誹謗中傷禁止のページで扱います。
守る人と、禁じる行為を列挙する
事務所が配偶者の不貞相手との示談書で使った接触禁止の条は、まず保護の対象を定義します。「甲、丙、甲又は丙の子(将来出生する子を含む。)、甲及び丙の二親等内の親族」を保護の対象者とし、国の内外を問いません。そのうえで、禁止する行為を号に分けて列挙しました。
第○条(接触等の禁止)
1乙は、国の内外を問わず、保護対象者(甲、丙、甲又は丙の子(将来出生する子を含む。)並びに甲及び丙の二親等内の親族をいう。以下同じ。)に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1)面会すること
(2)電話(ビデオ通話及びインターネットを利用した通話を含む。)をかけること
(3)電子メール、SNS、メッセージアプリ、オンラインゲームその他の方法により送信すること
(4)手紙、贈り物その他の物を送付すること
(5)SNS等においてフォロー、友達申請、コメント、いいね、メンション又はタグ付けをすること
(6)住居、事業所又は通学先の付近において待ち伏せ、見張り又はうろつきをすること
(7)客として保護対象者の事業所に立ち入り、又はこれを利用すること
(8)保護対象者の事業所に予約、注文又は問合せをすること
(9)第三者を介して前各号に掲げる行為をすること
(6)の場所は、住居・丙の事業所・子の通学先に限っています。場所を広げすぎると、乙の生活に必要な外出まで制限することになり、過度な制限として条項の効力を争われるおそれがあります。
保護の対象を配偶者だけにすると、子や親族に近づくこと、子や親族を通じて配偶者の様子を探ることは、条文の上では禁止されません。反対に、対象を広げすぎると、乙が誰に近づいてはならないのかを把握できず、知らずに違反する場面が増えます。そこで、子については将来生まれる子まで含め、親族については「二親等内」と範囲を数字で区切りました。民法は親族の範囲を725条で、親等の数え方を726条で定めており、二親等内の親族には、親・子・祖父母・孫・兄弟姉妹といった血族のほか、配偶者の親や兄弟姉妹など二親等内の姻族も入ります。国の内外を問わないとしたのは、転居や旅行の先での接触を除外しないためです。対象を誰にするかは、ヒヤリングで「配偶者だけか、家族まで含めるか」を伺って決めます。
列挙のポイントは、手段の変化に追いつける書き方にすることです。電話には、ビデオ通話やインターネットを使った通話を含めます。送信の手段には、電子メールやメッセージアプリだけでなく、オンラインゲームの中でのやり取りも含めます。SNSについては、メッセージを送らなくても、フォローや「いいね」、タグ付けだけで相手に存在を知らせることができるため、別の号にしました。客として事業所を訪れることや、予約や問合せの形で連絡することも、業務の外形をとった接触として号に挙げています。
最後の「第三者を介して」の号は、共通の知人に伝言を頼む、別のアカウントを使う、といった方法を防ぐためのものです。ある夫婦間の誓約書では、LINEグループなど複数人でのやり取りの場(閲覧を含む)も禁止の対象に加え、形式を問わず、実質的に意思疎通を図る行為を禁止しました。相手と一対一でなくても、同じグループに参加し続ければ、互いの投稿を通じてやり取りができてしまうためです。
違反にしない場面を書く:偶然の遭遇・不知・履行のための連絡
禁止行為を広く列挙したら、次に、違反にしない場面を書きます。事務所の示談書では、次の三つを置きました。
接触禁止の例外と免責
| 場面 | 示談書の書き方 | 置く理由 |
|---|---|---|
| 偶然の遭遇 | 偶然に出会うことは違反ではないが、乙は直ちにその場を立ち去る | 生活圏が重なる以上、偶然の遭遇は避けられない。違反にしない代わりに、立ち去る義務を課す |
| 相手や場所を知らなかった | 相手方や場所が保護の対象に当たることを知らず、知らないことに過失もない場合は適用しない | 保護対象者の親族の顔や、事業所の場所をすべて知っているとは限らない |
| 示談の履行に必要な連絡 | 履行に必要な最小限度の連絡は、甲が指定する方法(指定がなければ示談書記載の住所宛ての郵便)で行える。履行と関係のない事項を含めれば違反とみなす | 支払や住所変更の通知など、示談書を守るための連絡まで禁止すると、示談書自体が守れなくなる |
三つ目の例外は、示談書に書かれた義務を果たすための連絡の通り道を、あらかじめ一本に決めておくものです。通り道を決めずに「必要な連絡は除く」とだけ書くと、乙は何でも「必要な連絡」だと言えてしまいます。方法を甲が指定し、指定がなければ郵便とし、履行と関係のない事項を書けば違反とみなす、という三段で、例外が抜け道にならないようにしています。求償を残す示談書では、求償の請求に必要な範囲での書面の郵送(事業所宛ては本人宛ての親展に限る)、弁護士への委任、裁判の手続も例外に加えました。求償の扱いは求償権の放棄と請求の制限のページで扱います。
SNSのつながりと、相手から連絡が来たとき
接触禁止の条で今や欠かせないのが、すでにあるSNS上のつながりの扱いです。禁止行為に「フォロー」を挙げても、すでにフォローしている状態を解除しなければ、互いの投稿は見え続けます。事務所の示談書では、締結日から7日以内に、SNS上のつながりを解除する義務を置きました。
もう一つの問題が、保護の対象者の側から連絡が来た場合です。不貞の示談では、乙が連絡を絶っても、丙のほうから乙に連絡してくることがあります。このとき乙が応答すれば、関係が再開するおそれがあります。事務所の示談書では、甲以外の保護対象者(丙を含む)から連絡を受けても乙は応答してはならず(電話に出ることを含む)、応答は違反とみなすとしました。ただし、連絡してきた相手が保護対象者であることを知らず、知らないことに過失もなく応答し、気付いてすぐにやめた場合は除いています。違約金の条では、応答の違反と、元の連絡の違反とが二重に数えられないよう、数え方を整理しています。
第○条(つながりの解除と応答の禁止)
1乙は、本示談書締結の日から7日以内に、保護対象者との間のSNS等におけるつながり(フォロー、友達登録その他これに類するものをいう。)を解除する。
2乙は、甲以外の保護対象者から連絡を受けた場合であっても、これに応答してはならない(電話に出ることを含む。)。乙がこれに応答したときは、前条に違反したものとみなす。ただし、乙が相手方が保護対象者であることを知らず、かつ知らないことに過失がなく応答し、これを知った後直ちに応答をやめた場合は、この限りでない。
夫婦間の誓約書では、配偶者の側に、より踏み込んだ措置を約束させることがあります。事務所の書類には、不貞の相手方の連絡先の削除、SNSのフォローの解除とブロック、位置情報の共有やクラウドの共有の解除、相手方からの贈答品の処分まで書いた誓約書があります。婚姻を続けるかどうかの判断を留保した誓約書では、納品の際の版で、異性と私的な連絡先を交換しない条項を加えました。既婚であることを伏せた交際をめぐる示談書では、署名と支払が完了した時点で、互いの連絡先を削除する条項を修正版で加えています。
配偶者の交際相手に接触の自粛を求める通知書でも、同じ発想を使っています。事務所が作成した通知書では、修正版で、連絡先を削除するだけでなくブロックの設定をすること、やり取りの履歴を削除すること、そして通知があったことを配偶者に伝えないことを求めました。「このような通知が届いたが」と配偶者に連絡すること自体も、間接的な接触とみなすと書いています。通知書の書き方は内容証明・通知書のページで扱います。
違反をどう確かめるか
接触禁止の条は、違反があったことを示せなければ、違約金も請求できません。事務所は依頼者に、違約金を請求するには違反の事実を示す資料が必要になるため、連絡の履歴や画面の記録などを保存しておくようお伝えしています。条文の側でも、違反の認定の仕方を書いておくことがあります。事務所の書類には、違約金が発生するのは「客観的資料その他合理的根拠に基づき違反が認められた場合」とした誓約書や、違反の有無に争いがあるときは送受信の履歴などの客観的な資料を参照すると定めた夫婦間の誓約書があります。違反を主張する側には資料を残す必要があることを、違反を疑われる側には一方的な決めつけで違約金を請求されないことを、それぞれ示す書き方です。
接触禁止の条の近くには、相手方が持っている写真やデータの削除と削除の報告、合鍵や私物の返還といった、関係を清算するための約束を置くことが多くあります。これらの約束を果たすには、何らかのやり取りが必要になります。返還の方法を郵送などに決め、削除の報告の方法も書面や指定の連絡先に限っておかないと、返還や報告のために会うことや連絡することが、接触禁止との関係で問題になります。清算のための行為の通り道も、例外の連絡と同じように一本に決めておきます。データの削除は口外禁止・データの削除のページで扱います。
同じ職場・取引関係があるとき
不貞の相手方と配偶者が同じ職場で働いている、取引先どうしである、という場面では、全面的な接触禁止をそのまま課すと、相手方の仕事や生活に大きく影響します。事務所のヒヤリングシートでも、全面的に禁止すると過度な制限と判断されるおそれがあることを注記したうえで、仕事上やむを得ない接触の可能性を伺っています。事務所の書類に見られる例外の書き方は、次のとおりです。
同じ職場・取引関係がある場合の例外
| 書き方 | 内容 | あわせて置いた約束 |
|---|---|---|
| 業務上必要不可欠な範囲 | 同一の職場における業務の遂行上必要不可欠な範囲の接触は例外とし、私的な接触には及ばないと明記する(最終版で追加) | 私的な接触の禁止は維持する |
| やむを得ない最小限 | 業務上やむを得ない最小限の接触は可とする | 人事評価に関与しない。業務の外で関わらない |
| 同席しても私語は禁止 | 業務上同席する場合も、私語や個別の会話は禁止する | 部署の異動や担当の変更を検討するよう努める |
| 業務上必要な場合を除き | 修正版で「業務上必要な場合を除き」の一文を加える | それ以外の接触の禁止は維持する |
業務上の例外を置くときは、例外が私的な接触の口実にならないよう、「私的な接触には及ばない」「業務の外では関わらない」といった反対側の約束とセットで書きます。
どこまでを業務上の接触と認めるかは、職場の実態によって変わります。同じ部署で毎日顔を合わせるのか、ときどき会議で同席する程度なのか、取引の窓口が一人しかいないのか、を伺ったうえで書き方を選びます。ヒヤリングでは、配偶者の店舗や勤務先の名称を示談書に明記するか、包括的に書くかも確かめます。名称を明記すれば範囲ははっきりしますが、示談書に店舗名が残ります。
ヒヤリングの問い 接触禁止の範囲を決める
配偶者の店舗や勤務先の名称を、示談書に明記しますか。それとも包括的に書きますか。
この問いで決まること範囲の明確さと、書面に店舗名が残ることのどちらを優先するかが決まる。
相手方に来てほしくない場所はどこですか。
この問いで決まること待ち伏せ・見張り・うろつきを禁止する場所の範囲が決まる。
禁止の対象は配偶者だけですか。子や親族も含めますか。
この問いで決まること保護対象者の定義が決まる。
仕事の上で、相手方と配偶者が接触せざるを得ない可能性はありますか。
この問いで決まること業務上の例外を置くか、置くならどの書き方にするかが決まる。
相手方が持っている写真やデータの削除と、削除の報告を求めますか。
この問いで決まることデータの削除の条と、削除を確かめる手続を置くかが決まる。
合鍵や私物の返還はありますか。
この問いで決まること返還の期限と方法を定める条が要るかが決まる。
三者の関係での書き分け、相互の禁止、未成年者、期間
三者で作る示談書では、接触禁止を誰と誰の間の約束にするかを決めます。事務所が改訂した三者間の示談書(離婚を予定していた案件)では、三者一括の書き方から、「甲と乙」「甲と丙」の二つの二者間の約束に書き分け、乙と丙の間は対象外にしました。依頼者から示された文言をもとにしたもので、甲と丙の間については、離婚の協議や家事調停に必要な連絡を除外しています。離婚の協議が控えている夫婦の間で接触を全面的に禁止すると、協議そのものができなくなるためです。
既婚であることを伏せた交際をめぐる示談書では、接触禁止を一方だけでなく、双方に課すことがよくあります。どちらの側から連絡しても違反になる形にして、関係の再開を防ぎます。事務所の書類には、相互の接触禁止を置いたうえで、専門職を通じた必要最小限の連絡は除くとした示談書があります。
未成年者が当事者となる事案では、禁止の対象をさらに具体的にします。未成年者どうしのトラブルの誓約書では、声をかけること、視線を向けること、背後に立つこと、被害を受けた側のアカウントを閲覧することやストーリーを視聴することまで禁止し、保護者の監督義務と連帯を置きました。成人と未成年者の不適切な関係をめぐる誓約書では、関係者の情報を集めること、照会すること、調べることも禁止しています。未成年者が当事者の示談は刑事事件・SNS・いじめの示談書のページで扱います。
期間の定め方も、事案によって違います。配偶者の不貞相手に差し入れさせた誓約書には「無期限・例外なし」としたものがあり、未成年者どうしの誓約書には、生活の場が重なる期間を想定したものがあります。夫婦間の誓約書と不貞の相手方との示談書を組み合わせた案件では、将来どちらかが独身になっても接触しないという条項を置きました。期間を定めない場合でも、例外と免責の書き方次第で、守れる条項になるかどうかが変わります。期限のない義務ほど、偶然の遭遇や業務上の接触の扱いを丁寧に書いておく必要があります。
接触禁止は、不貞の相手方に課すものとは限りません。夫婦間の誓約書で、夫婦の一方に、特定の人物との接触を禁じることもあります。事務所の書類には、特定の人物との接触の禁止と、配偶者への暴力の禁止をあわせて誓約させた夫婦間の誓約書があります。この場合、禁止を守る義務を負うのは夫婦の一方で、保護の対象ではなく「接触してはならない相手」を特定する書き方になります。相手の特定、禁止する行為の列挙、偶然の遭遇や業務上の接触の扱いを書く点は、不貞の相手方に課す接触禁止と同じです。
接触禁止の条で起きがちなこと
接触禁止の条は、違反の有無が最も争われやすい条です。事務所は、保護対象者・禁止行為・例外と免責の三つをそろえたうえで、違約金の条で「違反1回」をどう数えるかまで一続きで設計しています。禁止の範囲を広げることより、守る側と守らせる側の双方が、何が違反かを同じように読める条文にすることを優先しています。
よくあるご質問
SNSの「いいね」や閲覧は、接触禁止の違反になりますか?
示談書の書き方によります。事務所の示談書では、フォロー、友達申請、コメント、いいね、メンション、タグ付けを禁止行為として列挙し、締結日から7日以内に既存のつながりを解除する義務を置いています。閲覧まで禁止するかは事案によって決め、未成年者の事案ではアカウントの閲覧やストーリーの視聴を禁止した例があります。
同じ職場にいる場合、接触禁止はどう書けばよいですか?
業務の遂行上必要不可欠な範囲の接触を例外とし、私的な接触には及ばないことを明記する書き方があります。あわせて、業務の外では関わらない、業務上同席しても私語や個別の会話はしない、といった約束を置き、例外が口実にならないようにします。
相手から連絡してきた場合に返信したら、違反になりますか?
応答を禁止する条を置けば違反になります。事務所の示談書では、保護対象者から連絡を受けても応答してはならず(電話に出ることを含む)、応答は違反とみなすとしたうえで、相手が保護対象者と知らず過失もなく応答し、気付いてすぐにやめた場合は除いています。
街で偶然会ってしまった場合も違反ですか?
事務所の示談書では、偶然の遭遇は違反ではないとし、その代わりに直ちにその場を立ち去る義務を置いています。偶然の遭遇まで違反にすると、生活圏が重なる当事者には守れない条項になります。
接触禁止はいつまで続きますか?
示談書で決めた期間です。期間を定めない例、在学中を想定した例、将来どちらかが独身になっても接触しないとした例があります。期間を長くするほど、偶然の遭遇や業務上の接触の例外を丁寧に書いておく必要があります。
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