近隣トラブルの覚書・合意書の書き方

隣人どうしの話合いがまとまったら、約束を書面にします。覚書で決めるのは、どちらが正しいかではなく、これから誰が何をするか、費用は誰が持つか、いつまで続くかです。

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「建物が現存する限り」と書いた覚書が、家を売った日に何も言わなくなる。そうならないために、承継と見直しまで書いておきます。

このページの要点

  • 事情の欄は、申出を「感じる」「伝えた」と記録し、いずれが正しいかを問わない合意であることを一文で示す。
  • 民法235条(目隠し)・225条〜228条(囲障)などの規定と、合意で上乗せする約束を区別し、照明・視線・音は時間帯や向きなど測れる形で書く。
  • 塀は敷地の所有者のもの(民法242条)が原則。費用の償還、補修、立入り、撤去の扱いを確認事項に書く。
  • 違約金は重大な違反に絞り、是正の機会と上限を置く。有効期間は承継と見直しの条とセットにし、保証人は範囲と上限額を本文に書く。

結論:覚書は「苦情の記録」ではなく、これから何を・誰が・いつまでにするかを決める書面

住宅どうしが隣り合っていると、照明のまぶしさ、窓からの視線、生活の音、塀や植栽の高さ、日当たりなどをめぐって、お互いに言い分が出てきます。話合いがまとまったときに、その内容を書面に残すものが、近隣の覚書(合意書)です。口約束のままでは、数年後に「そんな約束はしていない」「そこまでの約束ではなかった」となりやすく、とくに隣人は簡単には引っ越せない関係ですから、あとから約束の中身を確かめられる書面にしておく意味は大きいといえます。

このページが扱うのは、双方が話し合って約束の内容がまとまったあとで、それを書面にする作り方です。どちらの主張が正しいか、どの程度の照明や音なら我慢すべきか、といった評価は書きません。それは書面を作る前の問題で、書面は評価ではなく約束を記録するものだからです。アトラス行政書士法人が行うのは書面の作成と、ご本人の書面を使者として送る事務までで、相手方との交渉や代理は行いません。

隣人間の覚書でよく見かける例(戸建て住宅の隣人どうしで、照明と視線をめぐる申出があり、境界付近に塀を設けたという内容)をもとに、近隣の覚書に共通して出てくる論点を整理します。扱うのは、「事情」の書き方、法律の規定と合意で上乗せする約束の区別、設置した塀・目隠しの所有と費用、違約金と有効期間、保証人・家族・口外禁止、署名の前の点検です。個人名・地名・日付・寸法・金額などの具体は書きません。

近隣の覚書の基本の構成

部分書くことこのページの節
前文・事情当事者と、覚書を作るに至った経緯(申出があったこと)「事情」の書き方
確認事項すでに行った工事や措置の内容と、誰がどういう趣旨で行ったか塀・目隠しの所有と費用
約束事項照明・視線・音などについて、今後それぞれがすること・しないこと約束を測れる形にする
費用・維持設置・補修・撤去の費用の負担、立入りの扱い塀・目隠しの所有と費用
違約金・期間約束を守らなかったときの扱いと、約束が続く期間違約金と有効期間
承継・保証・口外家や土地の持ち主が変わるとき、保証人、第三者への話し方保証人・家族・口外禁止
管轄・署名争いになったときの裁判所、通数、署名押印署名の前に確かめること

近隣の覚書は、三つの問いに答える書面です。何があったのか(事情)、これから何をするのか(約束)、守られなかったらどうするのか(違約金・期間)。

「事情」の書き方:苦情を当事者の言葉で記録し、評価を書かない

覚書の冒頭に置く「事情」は、なぜこの約束をするのかを示す部分です。ここで気をつけたいのは、事情の欄が「どちらが悪かったかの認定」に見えてしまうことです。見かける覚書の例では、事情の欄に、隣人から申出のあった苦情が号を立てて並べられていました。照明がまぶしいという申出、窓を開けないわけにはいかない事情、視線を感じるという申出、長く我慢してきたという申出、照明を消してほしいという要望、といった内容です。

こうした書き方には利点もあります。何が不満だったのかが書面に残るため、約束事項がその不満に対応していることが読み取れるからです。他方で、申出の言葉がそのまま事実として認められたように読めるおそれがあります。たとえば「覗かれている気がする」は、感じ方の記録です。「覗いた」という事実を相手方が認めたことにはなりません。事情の欄に「相手方が覗いた」と書けば、約束の相手は、事実を認めて署名したことになってしまいます。また「怪我をした」といった身体の被害に言及する申出は、損害賠償の問題へつながりうるため、覚書でそれを解決済みにするのか、別問題として残すのかを、書面の上で決めておく必要があります。

見比べ 事情の欄の書き方

申出の書き方

よく見かける書き方

「甲が建物を建築した後、乙が、甲の建物の明かりがまぶしい、乙宅を覗かれている気がすると申し立てた。」と、申出の言葉をそのまま事実のように並べる。

改訂後

「乙は、甲の建物の照明について、夜間にまぶしく感じること、及び甲の建物の窓から乙宅の様子が見えると感じることを甲に伝えた。」と、乙が感じたこと・伝えたことを記録する。

理由「感じる」「伝えた」と書けば、申出があった事実は残り、申出の内容が事実であると相手方が認めたことにはならない。

認否の扱い

よく見かける書き方

申出の内容が正しいかどうかには触れない。

改訂後

「甲及び乙は、上記の点について、いずれが正しいかを問わず、今後の良好な関係のために本覚書を定める。」と一文を置く。

理由事実の認否を棚上げにして約束だけを決める、という合意であることを、書面で示す。

身体・体調に関する申出

よく見かける書き方

申出の中の怪我や体調への言及を、事情の欄にそのまま書く。

改訂後

別の損害の問題として扱うかどうかを決め、覚書で解決する場合は清算の条を置く。覚書の対象外とする場合は、対象外であることを書く。

理由書かないままでは、覚書で全部解決したのか、その点は別の話なのかが分からなくなる。

事情の欄では、誰が悪いかは書かない、しかし何を話し合ったのかは残すという線を引きます。苦情の項目は、対応する約束事項の番号と結び付けておくと、読み手が、どの約束がどの申出に応えるものかを追えます。事情の欄が長すぎると、そこに書いた表現のひとつひとつが争いの種になります。申出の中心点を三つか四つに絞り、言葉は「感じる」「伝えた」「求めた」で統一するのが扱いやすい書き方です。

条文例

前文・事情(例)

甲と乙は、甲の建物と乙の建物が隣り合っていることに関し、次の経緯があったことを確認し、今後も良好な隣人関係を続けるため、次のとおり覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。

(1)乙は、甲の建物の照明が夜間にまぶしく感じられることを甲に伝えた。

(2)乙は、甲の建物の窓から乙宅の様子が見えると感じることを甲に伝えた。

(3)乙は、上記(1)及び(2)について、甲の敷地内に塀を設けることを甲に求め、甲はこれに応じた。

甲及び乙は、上記の各事項についていずれが正しいかを問うことなく、本覚書を締結する。

事情は、事実の認定ではなく、話し合った内容の記録として書きます。最後の一文で、認否を問わない合意であることを示します。「甲の言い分が正しいから」「乙が悪いから」と読める言葉は入れません。

「甲」「乙」という呼び方は、前文の冒頭で、誰を指すかを一度だけ定義します。個人どうしの覚書でも、甲乙の別は、住所と氏名で特定します。同じ姓の家族が同居している場合は、名前まで書いて、誰が当事者なのかを区別します。家族が当事者かどうかは、後の節で扱います。

法律の規定と、合意で上乗せする約束を分けて考える

民法には、隣り合う土地の使い方を調整する相隣関係の規定があります。近隣の覚書を作るときは、法律がすでに決めていることと、当事者が合意で上乗せすることを区別して書くと、約束の意味がはっきりします。法律の規定を言い換えただけの約束は、守る義務の根拠が法律にもあり、合意で上乗せした約束は、この覚書があるから守る義務が生じる、という違いがあるからです。

覚書に関わる相隣関係の規定(民法)

規定内容覚書での使い方
235条(観望の制限)境界線から1メートル未満の距離で他人の宅地を見通せる窓や縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。距離は、窓や縁側の最も隣地に近い点から垂直線で境界線までを測る(同条2項)1メートル以上離れた窓には、この規定は及ばない。目隠しやすりガラスなど、規定を超える措置は合意で決める
225条〜228条(囲障)二棟の建物の所有者が異なり、間に空地があるとき、各所有者は共同の費用で境界に囲障を設けることができる。協議が調わないときは、板塀などで高さ2メートルのもの(225条)。費用は相隣者が等しい割合で負担する(226条)。一人がより良い材料や高い囲障にするときは増加額を負担する(227条)。異なる慣習があればそれに従う(228条)どの高さ・材料の塀をどちらの敷地に、誰の費用で設けるかは、規定と異なる内容を合意で決められる。決めた内容と理由を確認事項に書く
234条(建築の制限)建物は境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないすでに建っている建物の位置については、覚書で新たに約束するのではなく、事実として確認するにとどめる
218条(雨水)直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない塀や庇を設けるときの雨水の流れの確認に使える
233条(枝・根)隣地の竹木の枝が境界線を越えるときの切除、根の切取りの規定植栽の手入れの約束を、規定より具体的に(時期・頻度)決める

上の表は、覚書で触れやすい規定の要点です。個別の事情に規定が当てはまるかどうかは、距離や建物の位置などの事実によって変わります。

この区別が大切なのは、法律の規定を超えた約束は、書き方次第で重すぎる負担になるからです。たとえば窓の目隠しは、境界線から1メートル未満の窓であれば民法235条の対象ですが、それより離れた窓について目隠しを求める約束は、合意で上乗せされた約束です。上乗せした約束の負担を誰がするのか、費用はいくらまでか、いつまで続くのかを書かないと、後から「そこまで約束したつもりはない」という食い違いが生まれます。

約束を測れる形に書くことも、同じくらい重要です。「まぶしくないようにする」では、まぶしいかどうかを双方が別々に判断してしまいます。照明であれば、点灯する時間帯、照らす向き、明るさを調整できる器具にするかどうか、センサー式にするかどうかなど、外から確かめられる形で書きます。視線であれば、窓の位置と、すりガラスやルーバーの設置、カーテンを閉める時間帯といった、行為や設備で書きます。生活の音は数値で測ることが難しいため、時間帯と行為(夜間の庭での談笑、機器の稼働など)で書き、苦情が出たときは書面かメッセージで具体的な日時を伝え、まず話し合う、という手順を決めておくのが現実的です。

条文例

約束事項(照明・視線の例)

1甲は、甲の建物の外部に設置した照明について、午後○時から翌午前○時までの間は、乙宅の方向を照らさない向きに調整し、又は消灯する。

2甲は、乙宅に面する窓のうち別紙図面に示す窓に、すりガラスその他乙宅の様子が見えにくくなる措置を講じ、その状態を保つ。

3乙は、前2項の措置について疑問が生じたときは、日時及び状況を甲に書面又はメッセージで伝え、甲及び乙は、まず協議する。

時間帯・向き・窓の位置を、外から確かめられる形で書きます。窓の位置は、文章だけでなく別紙の図面や写真で特定するのが確実です。3項は、何かあったときにすぐ違約金や撤去の話にならないよう、協議を先に置くものです。

反対に、一方だけに一方的な我慢を求める約束には注意が要ります。たとえば「乙は、甲の敷地内の会話を問題にしない」とだけ書くと、乙は、甲の敷地内で聞こえる会話を、内容や時間帯にかかわらず一切問題にできなくなります。生活の中の自然な音を互いに受け入れる趣旨であれば、「通常の会話や生活の音であって、深夜の時間帯の大きな声や、特定の相手に向けた発言を除く」といった形に範囲を絞り、双方が同じように負う約束にする方が、書面としての安定性が高まります。極端に一方に偏った約束は、民法90条(公序良俗)に反するとして争われる余地を残します。

設置した塀・目隠しの所有と費用、将来の補修と撤去

近隣の覚書で、いちばん争いが残りやすいのが、塀や目隠しを設けたあとの取扱いです。設けたときは両者が納得していても、数年後に、補修が必要になったとき、日当たりが気になりはじめたとき、家の持ち主が代わったときに、「この塀は誰のものか」「誰が直すのか」「壊してよいのか」が問題になります。

まず、所有者です。自分の敷地に塀を建てると、その塀は、敷地の所有者のものになるのが原則です。民法242条は、不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する、と定めています(権原によって物を附属させた他人の権利を妨げないというただし書があります)。つまり、費用を出した人と、塀の所有者が一致しないことがありえます。見かける例では、隣人の求めに応じて、塀を建てた側が自分の敷地内に自分の費用で塀を建てたため、費用を出した人と所有者は一致していました。ここで問題になるのは、費用を出した側が、塀の維持や将来の撤去について、相手にどこまで求められるかです。

仮に、相手の敷地に塀を建てて費用を負担した場合は、費用を出した人は、その償金を請求できる場合があります(民法248条、703条、704条)が、これを請求するのか、しないのかを書面に書かないと、後で話がこじれます。逆に、自分の敷地に自分の費用で建てた場合は、「相手の求めに応じて、善意で、任意に建てたもので、償還を求めない」旨を書くのが、書面の安定になります。見かける例には、塀を任意で建設したことを双方で確認する条が置かれていました。これは、後で「頼まれて建てたのだから費用を払え」「いや、勝手に建てたのだ」という争いが起きないよう、建設の趣旨を確認する条文です。

見比べ 塀の設置の確認と費用の書き方

建設の趣旨

よく見かける書き方

「乙の要望により甲の敷地に塀を建設した。」とだけ書く。

改訂後

「甲は、乙の求めを受け、良好な隣人関係を続けるため、自己の敷地内に、自己の費用で、別紙図面のとおり塀を設置した。甲は、この費用について乙に償還を求めない。」と書く。

理由要望した人と、費用を出した人、設けた場所、償還の有無を、一文で確定させる。

塀の所有

よく見かける書き方

塀の所有者について触れない。

改訂後

「本件塀は甲の所有に属する。」と書く。

理由自己の敷地内に設けた塀は、敷地の所有者のものになるのが原則(民法242条)で、これを書面で確認しておく。

将来の補修

よく見かける書き方

補修の費用や、補修のための立入りについて触れない。

改訂後

「本件塀の保存及び補修の費用は甲が負担する。ただし、乙の責めに帰すべき事由により損傷したときは、乙が負担する。」と書き、立入りの手続は別の項に置く。

理由塀はいつか傷む。傷んだときの費用と立入りの扱いを、傷む前に決めておく。

将来の補修のときは、塀の外側の面(相手方の側)を補修するために、相手方の敷地に入る必要が出てきます。民法209条1項は、土地の所有者が、境界またはその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去または修繕のために必要な範囲で、隣地を使用できると定めています。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ立ち入れません(同項ただし書)。使用の日時、場所および方法は、隣地の所有者や使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければならず(同条2項)、あらかじめ目的・日時・場所・方法を通知する必要があります(同条3項。あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく通知すれば足ります)。これらは法律上の決まりですが、覚書で「補修の際は、○日前までに連絡し、立入りの日時を協議する」と書いておくと、実際の場面で迷いません。

塀が倒れて人や物に損害を与えたときの責任も、事前に書面で確認しておく価値があります。民法717条1項は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者が責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が責任を負うと定めています。誰が占有し所有するかを覚書で明確にすれば、「誰が点検し、異常に気づいたら誰に伝えるか」という運用も決めやすくなります。覚書で責任の所在を変えることは、当事者間では可能ですが、被害者となる第三者との関係で法律の責任が変わるわけではありません。

最後に、「やはり撤去してほしい」「日当たりが悪くなった」といった、設置後の申出への備えです。見かける例では、日当たりなどの問題が出た場合には、申出をした側が自分の負担で解決し、塀を建てた側は一切の負担を負わない、という条が置かれていました。この約束は、塀を建てた側の負担を守る趣旨で、根拠のある約束ですが、「自分の負担で解決する」とは具体的に何をすることかを書いておくと、後の争いを防げます。たとえば、採光を補う器具を自費で設置することなのか、塀の高さを変える工事を自費で行うことなのか、塀の一部を撤去する場合に双方の同意を要するのか、といった範囲です。

条文例

確認事項・塀の所有と維持(例)

1甲は、乙の求めを受け、良好な隣人関係を続けるため、甲の敷地内に、甲の費用で、別紙図面に示す塀(以下「本件塀」という。)を設置したことを、甲及び乙は確認する。甲は、本件塀の設置費用について、乙に償還を求めない。

2本件塀は、甲の所有に属する。

3本件塀の保存及び補修の費用は、甲が負担する。ただし、乙の責めに帰すべき事由により損傷したときは、その修繕費用は乙が負担する。

4甲が本件塀の乙側の面を補修するため乙の敷地に立ち入る必要があるときは、甲は、あらかじめ日時及び方法を乙に通知し、乙の承諾を得る。乙は、正当な理由なくこれを拒まない。

5乙が、日当たりその他の事情を理由に本件塀の変更又は撤去を希望するときは、乙は、その旨を書面で甲に伝え、甲及び乙は変更の可否及び費用の負担を協議する。協議が調わない場合、甲は変更又は撤去に応じる義務を負わない。

「償還を求めない」「所有に属する」と書いて、誰のものか・誰が払うかを確定させます。5項では「自分の負担で解決する」と書く代わりに、まず協議する流れを置きました。何も決めずに撤去を求められる状態を避けつつ、一方的に突き放さない書き方です。

ヒヤリングの問い 近隣の覚書を作るために

  1. 塀・目隠し・照明など、すでに行った工事や措置はありますか。いつ、誰が、誰の費用で行いましたか。

    この問いで決まること確認事項に書く事実と、償還の有無、所有者の記載が決まる。

  2. 今後、お互いにしてほしいこと・しないでほしいことは、時間帯、向き、場所などで言い表せますか。

    この問いで決まること約束事項を測れる形にできるか、別紙の図面や写真が必要かが決まる。

  3. 補修や点検のために、相手の敷地に入る必要が出ますか。

    この問いで決まること立入りの手続の条を置くかどうかが決まる。

  4. 双方は、この約束がいつまで続くことを想定していますか。家の建替えや売却は想定されますか。

    この問いで決まること有効期間の定め方と、承継の条の要否が決まる。

  5. 書面の内容を、家族や管理組合・自治会に伝える必要がありますか。

    この問いで決まること口外禁止の例外の書き方が決まる。

ヒヤリングでは、どちらが正しいかは伺いません。何が決まっていて、何が決まっていないかを伺います。

違約金と有効期間:工事費相当額で書くときの注意

近隣の覚書に違約金を置くことがあります。見かける例では、約束を守らなかった場合に、塀を建てた側が負担した外構工事の費用を支払う、という違約金の条が置かれていました。違約金は、約束を守らせる力になりますが、書き方によっては重すぎる、あるいは、使えない条になります。

民法420条1項は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定できる、と定めています。同条3項は、違約金は賠償額の予定と推定する、と定めます。したがって、「約束に違反したら違約金として○円を支払う」と書くと、原則として、損害の額を立証しなくても、その額を請求できるという趣旨の予定と読まれます。同条2項により、賠償額の予定は、履行の請求や解除権の行使を妨げません。違約金の設計の一般論は違約金の設計のページで扱っていますので、このページでは、近隣の覚書で出てくる論点に絞ります。

  • 違反の範囲が広すぎないか。「上記のことを遵守しない場合」だけだと、約束事項のすべての小さな違反に、工事費相当の違約金が結び付く読み方もできてしまう。違約金の対象を、重大な違反(塀の無断の変更・撤去、繰り返される妨害行為など)に絞り、軽い違反は、書面での注意と協議を先に置く。
  • 金額が違反と釣り合っているか。工事費相当額は、塀の費用としては筋が通っていても、会話や生活音の問題のような約束の違反に結び付けると、損害との釣り合いを欠いて争われうる。民法90条や、金額の過大さを理由とする争いの余地を残さないために、違反の種類ごとに額を分けるか、実損の賠償として書く方が安定する。
  • 片方だけが払う形になっていないか。一方だけが違約金を負う書き方は、署名への抵抗を強める。双方の約束に双方の違約金を置くか、違約金を置かずに、是正の催告と、是正されないときの措置(是正費用の負担など)で書く方法もある。
  • 違約金の性質を書いているか。民法420条3項により賠償額の予定と推定されるため、違約金のほかに実損の賠償も求めたいのか、違約金で終わりなのかを書く。

見比べ 違約金の書き方

対象となる違反

よく見かける書き方

「乙が上記のことを遵守しない場合は、甲が負担した外構工事費用を乙が支払う。」と、約束事項全体にかかる書き方。

改訂後

「乙が、第○条の約束に違反し、甲が書面で是正を求めてから○日を経過しても是正しないときは、甲が負担した本件塀の設置費用のうち、別紙の算定による額を、違約金として甲に支払う。」と、対象の条と手順を限定する。

理由対象の条と、是正の機会を書くことで、軽微な違反や一度の行き違いが、すぐに高額の違約金に結び付かないようにする。

金額

よく見かける書き方

工事費の全額と読める書き方。

改訂後

別紙で算定方法(設置からの経過年数に応じて減額するなど)を示し、上限を書く。

理由時間が経った塀の費用の全額を請求できるとするのは、実際の損害と釣り合わないおそれがある。

賠償との関係

よく見かける書き方

違約金のほかに損害賠償を請求できるかどうかを書かない。

改訂後

「本条の違約金は賠償額の予定とし、甲は、違約金を超える損害の賠償を請求しない。」又は「違約金を超える損害の賠償も請求できる。」のいずれかを書く。

理由民法420条3項の推定があるため、どちらの趣旨なのかを当事者が選んで書く。

次に、有効期間です。見かける例では、覚書の内容は建物が現存する限り、すべての記載事項に効力を有する、とされていました。この書き方は、約束が建物の存続と結び付いている趣旨が明快で、更新の手間もありません。他方で、建物を建て替えたとき、売却したとき、貸したとき、相続で持ち主が変わったときに、約束が続くのかどうかが読み取れません。

覚書は、当事者の間の約束(債権的な約束)です。家や土地を買った人や借りた人が、当然に覚書に拘束されるわけではありません。契約上の地位を第三者に移すには、相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。つまり、「建物が現存する限り」と書いても、持ち主が代わったときの約束の行方は、書面に書いておかなければ決まりません。そこで、承継の条として、次のような定めが考えられます。

有効期間と承継の定め方

定め方内容注意
建物が現存する限り建物がある間、約束が続く建替え・売却・賃貸のときの扱いが読み取れない。承継の条を併せて置く
定めた年数たとえば一定の年数で終了し、更新の協議をする期間が切れると約束がなくなるため、塀や照明のように続く状態と合わない場合がある
一定の事由までどちらかが住まなくなるとき、塀が撤去されるときまで「住まなくなる」の判断を、通知と確認の手順で決めておく
承継の義務を置く売却や賃貸のときに、買主・借主へ覚書の存在を知らせ、承継を求める努力をする買主・借主が同意しなければ、覚書は及ばない。努力義務にとどまる

覚書は、当事者の約束です。持ち主が代わっても続けたいなら、その旨を書き、承継を求める手順まで書きます。土地や建物に付いて回る権利として設定する別の仕組みもありますが、それは覚書とは別の手続です。

条文例

有効期間・承継(例)

1本覚書は、締結の日から効力を生じ、甲又は乙のいずれかが本件建物を所有しなくなるまで、その効力を有する。

2甲又は乙が、その所有する建物又は土地を第三者に譲渡し、又は賃貸するときは、あらかじめ本覚書の存在及び内容をその第三者に告げ、本覚書の内容を承継するよう求める。

3家族構成その他の事情に大きな変化があったときは、甲及び乙は、本覚書の内容の見直しについて協議する。

「承継するよう求める」は、買主や借主を拘束するものではなく、求める義務です。それでも、買主が何も知らされないまま同じ苦情が再燃する事態を防ぐには、役に立ちます。3項の見直しの協議は、高齢化や家族の増減など、数年後に状況が変わったときの逃げ道です。

保証人・家族・口外禁止:署名欄に誰を置くか

近隣の覚書には、保証人の欄がついていることがあります。違約金や是正の費用の支払を、ほかの人にも保証してもらうという趣旨です。ここで確かめたいのは、署名欄に保証人の欄があっても、本文に保証の約束がなければ、何を保証するのかが書面から読み取れないことです。民法446条2項は、保証契約は書面でしなければ効力を生じない、と定めています。保証人が「何を、いくらまで」保証するのかが書かれていない書面は、保証の範囲をめぐって争いになりやすくなります。

保証する債務が、あらかじめ決まった一つの債務(たとえば、特定の違約金)であれば、その債務を特定して保証人の条を置きます。他方で、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する形(根保証)になり、保証人が法人でないときは、極度額(保証人が責任を負う上限額)を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。「覚書に基づく一切の債務を保証する」と書くと、根保証と評価されるおそれがあるため、保証する範囲を絞り、書面に金額の上限を書くのが安全です。

条文例

保証人の条(例)

1保証人は、乙が本覚書第○条に基づき甲に対して負う違約金の支払債務について、金○円を限度として、乙と連帯して保証する。

2保証人は、前項の保証の内容について説明を受け、理解した上で、本覚書に署名押印する。

保証の対象を、特定の条の債務に絞り、上限額を書きます。「一切の債務」と書かないことで、範囲の曖昧さと、極度額の定めの問題を避けます。保証人を置くかどうか自体も、署名への抵抗につながりうるため、本当に必要かを当事者で確かめます。

次に、家族です。近隣の問題は、実際には家族全員の生活に関わります。ところが、覚書の当事者は、署名した人だけです。署名していない同居の家族は、覚書の当事者ではないため、覚書で直接の義務を負いません。この点は誓約書で約束しても効かないことのページで、当事者でない人への義務付けの限界として扱っています。家族の行動も約束の対象にしたいなら、家族にも署名してもらって当事者にする方法と、署名した人が、同居の家族に覚書の内容を周知し、守るよう働きかける義務を負う、という書き方があります。後者は、家族の行動の結果まで責任を負わせるものではなく、「周知し、守るよう努める」にとどめるのが適切です。

最後に、口外禁止です。見かける例には、当事者間の問題を第三者に口外しないという条がありました。近所づきあいの中で、お互いの問題が広まることを避けたい気持ちは自然ですが、口外禁止の条は、広すぎるとあとで窮屈になります。家や土地を売るときに、買主に隣人との経緯を説明できない、管理組合や自治会に相談できない、役所の相談窓口に話せない、というのでは、約束を守ること自体が難しくなります。口外と投稿を分け、例外を列挙する書き方は口外禁止・削除の条項のページで扱っています。近隣の覚書では、少なくとも、次の場面を例外に入れておくと運用しやすくなります。

  • 家族に、覚書の内容を伝えるとき。
  • 建物や土地を売却・賃貸するときに、買主・借主へ覚書の存在と内容を伝えるとき。
  • 自治会・管理組合・行政の相談窓口に、事実を伝えて助言を求めるとき。
  • 法令に基づき、または裁判所・捜査機関から求められたとき。
  • 保険の手続のために、必要な範囲で保険会社に伝えるとき。

管轄の合意も、近隣の覚書で見かける条です。民事訴訟法11条は、当事者は第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができるとし、その合意は一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ書面でしなければ効力を生じない、と定めています。「甲の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所」というように、住所地を基準に書くのがふつうですが、地方裁判所と簡易裁判所のどちらになるかは、請求の額などで決まるため、「専属的合意管轄」と書くかどうかも含めて、条文を見直します。専属的と書くと、ほかの裁判所では訴えを起こせなくなるため、書くかどうかは双方の住所の位置関係を見て決めます。住所が離れていない隣人どうしでは、管轄の合意の実益は小さいことが多いといえます。

署名の前に確かめること、そして近隣の覚書で起きがちなこと

覚書は、短い書面です。それだけに、一文の言葉の足りなさが、あとで大きな食い違いになります。署名の前に、次の点を見直します。

近隣の覚書の署名の前に

  • 前文と本文で、書面の呼び方(本覚書)が統一されているか。「本契約」「本書」と混在していないか。
  • 同じ出来事の日付が、事情と確認事項と違約金の条とで食い違っていないか。工事の日、要望を受けた日などは、書面の中で一つに決まっているか。
  • 「上記のこと」「前項の事項」のような指示語が、どの約束を指しているか、読み手が迷わないか。
  • 事情の欄に、事実の認定と読める言葉(「覗いた」「迷惑をかけた」など)が入っていないか。
  • 約束事項が、時間帯・向き・場所・設備といった、外から確かめられる形になっているか。
  • 塀や設備の所有、費用、補修のための立入り、撤去の扱いが書かれているか。
  • 違約金の対象が、重大な違反に絞られ、是正の機会が置かれているか。金額に上限や算定方法があるか。
  • 有効期間と、建替え・売却・賃貸のときの承継の扱いが書かれているか。
  • 保証人の欄を置くなら、保証する債務と上限額が本文にあるか。
  • 口外禁止に、家族・買主・自治会・行政の窓口などの例外があるか。
  • 管轄の条の文言に脱字がなく、裁判所の指定が正しいか。
  • 本書の通数と、各自が保有する通数が一致しているか。保証人がいる場合、保証人にも1通を渡すか決めているか。

近隣の覚書は、争いを終わらせるというより、これから長く続く関係を、書面で安定させるための書面です。そのため、勝ち負けを決める文言を避け、約束は双方が守れる範囲に絞り、続く年月に合わせて、見直しの余地と承継の手順を置きます。同じように一方の我慢を求めるだけの約束は、署名はされても、守られにくくなります。事実の評価が分かれる場面では、評価には踏み込まずに、行動を決めるという姿勢が、覚書を使い続けられる書面にします。

貸金や報酬の請求の通知書とは異なり、近隣の覚書では、通知書で相手方に何かを請求する段階を経ないことも多くあります。通知書を出す場合の記載事項は内容証明・通知書のページで、支払が絡む場合の受領確認や清算の条は受領確認と清算のページで、それぞれ扱っています。約束を守らなかった側の責任をどう書くかは違約金の設計のページが参考になります。

近隣の覚書についてのご質問

ご質問

話合いで決まった内容を、メモのようなものでも残しておけば足りますか。

回答

メモも合意の内容を示す資料にはなりますが、当事者の署名がなく、誰が何を約束したのかが曖昧になりやすいです。約束事項、費用、期間、違約金を書き、双方が署名した覚書にする方が、後から確かめやすくなります。

ご質問

法律の規定で決まっているのなら、覚書に書く必要はありませんか。

回答

規定がある場合でも、距離や高さなどの事実関係が当事者で食い違うことがあります。規定を前提としたうえで、具体的な措置や費用の負担を覚書で確認しておくと、約束がより明確になります。法律の規定を超える約束は、覚書があるから生じる義務ですので、とくに明確に書きます。

ご質問

相手が署名してくれない場合、事務所が相手方に交渉してもらえますか。

回答

事務所は、書面の作成と、ご本人の書面を使者として送る事務を行いますが、相手方との交渉や代理は行いません。署名に応じるかどうかは、当事者どうしの話合いで決まります。

よくあるご質問

近隣トラブルの覚書には、どのようなことを書けばよいですか。

前文と事情(話し合った内容の記録)、確認事項(すでに行った工事や措置)、約束事項(今後すること・しないこと)、費用と維持(補修・立入り・撤去)、違約金、有効期間と承継、保証人、口外禁止の例外、管轄、署名の順に組み立てます。事情の欄では、誰が正しいかを書かずに、話し合った内容を「伝えた」「求めた」の形で記録します。

目隠しの設置は、法律で決まっていますか。

民法235条は、境界線から1メートル未満の距離で他人の宅地を見通せる窓や縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならないと定めています。1メートル以上離れた窓には、この規定は及びません。そのため、規定を超えて目隠しやすりガラスを設けるときは、覚書で合意して決めます。

自分の敷地に建てた塀は、誰のものになりますか。

自分の敷地に建てた塀は、原則として敷地の所有者のものになります(民法242条の付合)。費用を出した人と所有者が異なる場合は、償金の請求(民法248条)の問題になりえます。覚書では、誰のものか、費用の償還を求めるか求めないかを書いて確定させます。

違約金を、塀の工事費相当額にしても問題ありませんか。

違約金は損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。工事費相当額にする場合でも、違反の対象を重大なものに絞り、是正の機会を置き、金額に上限や算定方法を設けるなど、違反の内容と釣り合う書き方にします。釣り合いを欠く額は、公序良俗(民法90条)の観点から争われるおそれがあります。

建物が売却されたら、覚書はどうなりますか。

覚書は当事者間の約束ですので、買主や借主が当然に引き継ぐわけではありません。契約上の地位を移すには相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。持ち主が代わっても続けたいなら、売却や賃貸のときに覚書の存在と内容を相手に告げ、承継を求める手順を覚書に書いておきます。

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